(102)一番人気のムーミングッズ
フィンランドではムーミンマグであれば値は問わないという熱心なコレクターが何人もいる。さらに新しいマグがでるたびに、自分用のほかに観賞用、さらに子供たちの分(ひとり暮らしを始めるときに持たせてあげるのだそう)まで買っていたりする。
こんなにも人が夢中になるムーミンマグのデザイナーはたった一人。1990年に始まったアラビアのムーミンマグのシリーズは、トーベ・スロッテが、産休のときを除いてすべて担当している。
トーベ・スロッテはもともと陶芸をやっていて、ティーポットやカップ、スープマグなどのほか、陶器の人形などを作っていた。ただアラビアで働きはじめたときの仕事は装飾。カップや皿に柄をほどこす担当だった。彼女の名前がムーミンの作者と同じトーベだから?スウェーデン語系だから?ムーミンが好きだといってたことを覚えていたから?…真相は分からないけれど、アラビアでムーミンマグの商品企画があがり、部長に声をかけられたのだった。
いまでも彼女は自分のことをデザイナーというよりも職人と呼ぶ。ムーミンのグッズのなかではめずらしく、アラビアのムーミンマグは原画をそのまま使う方法をとらず、自分たちでオリジナルの絵をおこしている。そう考えると、トーベ・スロッテはやっぱり優れたデザイナーなんじゃあと思う。でもオリジナルの絵といっても、できる限り原画を使い、あちこちから見つけてきた原画を組み合わせアレンジし、場合によっては絵を付け加えデザインされる。
マグが日常にもたらすひとときのこと、マグが演出できるだろう数々のハレの場面も考えながら、マグに相応しい柄を考える。さらにトーベ・スロッテは、ムーミンマグを手にする人たちに、絵の背後にあるムーミンの物語に興味をもってもらえたら、ムーミンの本を手にしてもらえたらと一貫して願い続けている。トーベの話を聞いていると、マグを使う人々を想う気持ち、ムーミンへの愛がひしひしと伝わってくる。ムーミンマグが愛されるのは、こういうところにあるんだろうなと、改めて思う。
森下圭子