(125)トーベ・ヤンソンとフィンランドの一世紀

ヘルシンキのクリスマスパレードに登場した国立バレエのムーミンたち。先頭はニョロニョロ。

12月6日はフィンランドの独立記念日。今年は独立100年ということで、年のはじめから大小のイベントが続いた。独立記念日にはマーケット広場に100本の国旗が並んだのだけれど、壮観ではあったものの、100本の旗というのは意外とあっさりしていて、改めて100年という年月は、そんな昔のことではないのだと思った。そしてトーベ・ヤンソンがフィンランドのヘルシンキで生まれたその時、フィンランドはまだ帝政ロシア下にあったのだ。トーベ・ヤンソンが3歳のとき、フィンランドは独立した。

独立から100年。フィンランド放送YLEが企画した、この一世紀を代表するスウェーデン語系フィンランド人は?という投票が行われた。スウェーデン語系フィンランド人というのは、スウェーデン語を母語とするフィンランド人のことで、トーベ・ヤンソンもその一人。実はフィンランドの独立に貢献した人たちの多くがスウェーデン語系フィンランド人という。現在は人口の5%強と考えるとフィンランドのマイノリティではあるけれど、一般的なマイノリティと違うのは、多くがブルジョワと呼ばれる階級にいることだ。トーベ・ヤンソンの子供の頃の話を読んでいると、お金のことを心配していたり、家計が安定することのない家で育ったことがうかがえるけれども、実際はヤンソン一家にもお手伝いさんがいた。わざわざ投票企画があるのも、フィンランドの100年を支えてきたフィンランドを代表するスウェーデン語系フィンランド人がたくさんいるからだ。

結果は、圧倒的な支持を得てトーベ・ヤンソンが一位となった。全投票の40%近くを獲得している(2位は26%のマンネルヘイム)。

クリスマスが近くなり、日照時間が極端に短いヘルシンキの街も、クリスマスのライトアップで明るくなった。ライトアップの初日に行われたクリスマスパレードでは、今年の4月に日本で世界初演を迎えたフィンランド国立バレエ団の『たのしいムーミン一家』がひときわ大きな歓声を受けて、クリスマスのうきうきムードを盛り上げていた。ちなみにこの作品のフィンランド上演は、来年の1月まで待たなくてはならない。

この12月は日本と同じくパペットアニメの映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』を上映している。また毎年恒例だけれども、クリスマスカードやクリスマスの挨拶のシーズンになると、SNSを含めてムーミンの短編『もみの木』(『ムーミン谷の仲間たち』に収録)の話をする人や一節を引用する人などが少なくない。一年の大切なお祝いの中にムーミンが共にある。フィンランドの暮らしにしっかり根づき、もはやなくてはならない存在になっているんだな。

森下圭子

ムーミンたちの登場にひときわ大きな歓声が。ムーミンに夢中になりすぎて、サンタクロースに気づかない人もいたほど。