(35)新しいムーミンスポット

真冬というのにメールからも元気ほとばしる人だった。ムーミンの会社から「こんな人がいるんだけど、どう?」と紹介された建築家。巷はクリスマスだ何だとてんやわんやの中で、それでもこの人はすぐに時間を作ってくれて会うことができた。セバスティアン、ひょんなことがきっかけでムーミンパパの灯台守になった人(厳密には所有者)。

トーベと同じスウェーデン語系フィンランド人、そして建築家…だけど、ムーミンパパの灯台だということを知らないでその灯台の運命を引き受けたのだとか。国有の島で使われることなく雨風にさらされるだけだった灯台が、金銭的な理由だけで壊されてしまうのがしのびなくて手を挙げてくれた人。噂を耳にしたセバスティアンがのちにチェックしてみたところ、灯台のガスボンベが決め手になり、『ムーミンパパ海へいく』で登場するムーミンパパの灯台だと気づいたのだとか。

冬の間は海が凍っているから行けない。なにか面白い取材でこのムーミンパパの灯台が紹介できないかなあ…と思っていたときに、この灯台に新しい命を吹き込んでくれたセバスティアンのことも紹介できる方法がひらめいて、先日『ほぼ日刊イトイ新聞』内の『フィンランドのおじさんになる方法』の取材として私も初めて島におじゃました。

多くの人たちが関わっていて、多くの人たちの手で大切にされていて、多くの人たちが訪れるようにと願われているからか、その島は本当になんだか元気な空気で満たされていた。島についたとたんに「楽しい!」と叫んでしまったほど。周囲が一望できる島だけれど、それでも大きくて、あちこちにある窪みがまた隠れ家のようでワクワクさせてくれて、そして雨が降るたびに増えたり大きくなったりしそうな水溜り。島にありながら、水がなくなる怖さを少しや和らげてくれそうなたまり水、意外に豊富な草花、ゴロンゴロン転がる大小の石たち。灯台や灯台守たちのシンプルな木造の家に残された古い食器や家具は今でも大切に使われている。風が吹けばびゅうびゅうと容赦なく小屋や灯台を叩いていきそうで、嵐がきたら一歩も外に出られないくらいなのに、でもぬくぬくとした感じが響いてくる場所。そんな場所では今まで怖がっていたことにも、一歩踏み出せそうな。妙に励まされる島だった。この島の灯台は修復中だったけれども、来年夏には外壁がきれいになっているはず。島の岩肌がクルーヴハルを思わせる。そして何よりも楽しいし。是非フィンランドに来ることがあれば、もしムーミンが息づいた自然を体験してみたいというのであれば、是非行ってみてください。夏になるとヘルシンキからも食事つきのフェリーが出ているし、何人かのグループになれば、船を出してというのも難しくはないと思う。ここの名はソーダーシャール。サウナもあるし、電気や水道なしの小屋で宿泊もできるし、カフェもあるし。

詳細はまた『フィンランドのおじさんになる方法』で新しい灯台守の建築家セバスティアンの話を含めてじっくりさせていただくとして、フィンランド語ですが、ソーダーシャールのサイトは…http://www.soderskar.fi/

あそこに吹く風はとってもおしゃべりな、そんな気がする。

森下圭子

 

ムーミンパパの灯台。フィンランドで唯一残っているガスボンベで灯りをともす。『ムーミンパパ海へいく』でもそのガスボンベの絵がしっかり描かれています。

この島はフィンランドのロックバンドのPV撮影に使われてもいるのだそうで。白黒でみると妙におどろおどろしい島になっていた。