(61)ムーミンの転機(前編)

仕事場の整理をしていたら、ムーミンネタ帳がでてきた。大学に所属して研究するのはやめようと思った頃のものだと思う。ネタ帳があったことすら覚えていなかったのだけれど、きっとあの頃はあれこれ葛藤していて、こまめに思いついたことを記録しようとしていたのかもしれない。ネタ帳は驚くほどに真っ白で、ほとんど何も書かれてなかった。

わずかの記録の中でおもしろいメモを見つけた。2003年の11月11日(火)に放送されたテレビ番組の記録。そこにはトーベ・ヤンソンの言葉が並んでいた。きっとインタビューかなにかで、テレビをみながら必死にメモしたんだろう。ネタ帳にはコンピューターで清書したものが貼り付けられていた。『ムーミン谷の冬』が誕生したその背景、彼女を襲った転機のことが語られていて、とても面白かった。今月と来月、年をまたぎますが、ぜひここに紹介させてください。

ムーミンが人気者になり、ムーミンは商品化されるようになりました。するとムーミンを介して自分が求めていた創造の世界とは違うことがたくさんでてきました。何々権、契約だとかなんとかかんとか。そんなことにふりまわされ、疲れ、挙句の果てに私はムーミンを憎むようになっていました。当時ムーミンのシリーズは途中にありました。

トゥーティッキ(おしゃまさん)のモデルのトゥーリッキ・ピエティラがそんな私とムーミンの関係を変える視点を与えてくれたのです。私はノスタルジーに浸ってたとも言える、冒険あふれる子供時代の思い出をムーミンに体験させるという「ムーミンの手法」をやめました。そして今の自分の地点に立った。ムーミンの人気と商品化ノノ石鹸までもがムーミンになる環境で感じ始めていた「理解されない」という思いに、シリーズの中のムーミンも入っていきました。それが冬です。一人ぼっち、誰も自分を理解してくれない、自分も理解できない冬。そんなところにムーミンをおいたのです。それが『ムーミン谷の冬』という作品になりました。こうしてムーミントロールはムーミン族の中で初めて、一冬を眠らずに越したのです。これによって私もまた、ムーミンと一緒に歩いていけるようになりました。(つづく)

森下圭子