(41)トーベのサイン会

アカデミア書店という本屋さんは(アールト設計)本に圧迫されない空間作りが本当に見事で、人の目線より上にわんさか本が並んでいない。おまけにところどころにソファが置いてあって棚と棚の間にたっぷり空間がある。そこで手にした本をソファに座って眺めていてもいいし、この前など雑誌をみながら必死にメモまでとっている人がいた。こんな本屋さんが日常にあったら、本好きの読書好きになりそうだよなあ…いつ行ってもそんなことを考えてしまう。

この書店を取材したときディレクターが案内してくれ、ディレクター室にもおじゃました。どっしりした構えの本棚では大きく分厚いゲストブックが一際目立っている。ページをめくってみたらトーベとトゥーリッキがでてきた。アカデミア書店では、実は何度もトーベまたはトーベ&トゥーリッキがトークショー、サイン会のゲストとしてやってきてくれたのだそうだ。オフィスにあった、他で見た記憶のないアールトの照明にも興奮したけれど、どんなだったかすっかり忘れてしまった。ゲストブックに書かれたトーベとトゥーリッキのサイン、一緒に添えられた絵で頭がいっぱいだ。サイン会かあノノどんな人たちが集まっていたのか、ムーミンの小さなお友達なんかもいたのかしらなんて、想像してるだけでも楽しい。

先日ひょんなことがきっかけで同席していた一人が、自身のムーミンの思い出を語ってくれた。『ムーミン谷の夏まつり』を初めて読んだとき、彼女はまだ小さな女の子だった。ん?話が何だかおかしい。家族が離れ離れになっていってしまうではないか。家族がばらばらになるのが、その感覚が怖い……結局この女の子は本をこっそりゴミ箱に捨ててしまった。家族がばらばらになる不安が、こうすれば消えると思ったから。本の中で離れ離れになる家族も、こうすれば大変な目に遭わずに済むように思ったから。ゴミ箱の本は、そして本当にどこかへ行ってしまった。

そんな彼女が少し大きくなったある日、家に『ムーミン谷の夏まつり』が戻ってきた。実は戻ってきたんじゃなくて、母が買いなおして食卓においてくれていたのだ。ページをめくったら、そこにはトーベ・ヤンソンのサインまである。「もうゴミ箱にいかせないでね。トーベ」と書かれたサイン。お母さんがサイン会に行って、こっそり娘のためにお願いしたらしい。もちろんこの1冊は他のどのムーミンよりも大切なものになったし、この物語に一番愛着があって今でもたまに読み返すと言っていた。アカデミア書店は本好きだけじゃなくって、本を大切にする人も育てている…のかもな。今でもこの書店ではよくトークショーやサイン会を行っている。もうトーベもトゥーリッキもいないのがちょっと寂しい。こういう時にそんな気持ちがまたわいてくる。

森下圭子

 

日本に刺激されているのかしら、影響されているのかしらと思わせるグッズがどんどん登場している気が。……フィンランドでこれを使いこなすのは子供だろうな。

ヘルシーおやつにもムーミン。小さな箱に入っているので、途中で「もうおしまい!」と叱ったり駄々をこねたりしなくてもすみそう。レーズンやドライフルーツが入っている。