(23)ムーミンの挿し絵といっしょ

 
ヘルシンキは気まぐれなお天気が続いている。少し前まで「もう冬みたい。朝晩は零下になったりまでするんだから。」と日本の友人に得意気に(寒いのはイヤなのに)伝えまくっていたら、夏にもなかったような穏やかでポカポカした陽気。トーベ・ヤンソンが夏を過ごしたペッリンゲ地域の小さな島々では、冬支度をしていたはずの花がまたポツポツと咲き始めていた。紅葉した森とピンクのバラ、茸とベリー、なんと贅沢な光景だろう。

そこへとつぜん木枯らしが吹き、嵐が続いた。あっという間に紅葉した葉は風にとばされ、地面のあちこちに積もっている。赤や黄色の葉を少しだけ残した木々に残るいろんな木の実の赤い色がとても目立つ。散歩しながらまじまじと木の実をみていると、その木の実のおしりのところまでが、ムーミンの挿し絵にある木の実のそれとあまりにも同じで、「ああ、ムーミンの木の実!」なんて感激してしまった。ムーミンの中に登場する色んな木のようす、木の実が次々と頭に浮かんでくる。

トーベの挿し絵はフィンランドで見る風景の些細なところが、妙に忠実だったりする。フィンランドの人には特別じゃないかもしれないけれど、ほんと感激。挿し絵の世界が目の前にあるのだから。そういえば初めてフィンランドでリスをみたときもだ。日本で絵を眺めていた頃はムーミンにでてくるリスの耳としっぽのシュシュッとした線が、記憶にあるリスとは違っていた。なんとなくムーミンにでてくるのはリスでないくらいの感じまで持っていた。なのにフィンランドに来てリスをみたら、ムーミンの挿絵そのものではないですか。

最近またムーミンの本を手にしては、動植物やら建物、インテリアなどの細かいところを眺めて楽しんでいる。この遠くから眺めた遊園地、あの遊園地のかつての姿にそっくりとか。きのこ図鑑を手に森の中を歩く季節もそろそろおわり…これからはムーミン片手に街や森の姿をじっくり味わってみようかな。

森下圭子

フィンランドのリス。首都ヘルシンキでもあちこちで見かける。トーベのお墓がある共同墓地でもリスがちょこちょこと人に走り寄ってくる。
木の実がいっぱい。あっちにもこっちにも。これはななかまど。じっくり煮詰めてジュレやジャムにしていただくとおいしい。