(10)大人だってムーミンにひたりたい

ここのところ大人のお客さんを想定したムーミングッズがフィンランドで続々登場している。特にフィンレイソン社の商品数ときたら、近所の子供の成長よりも驚かされるペース。すごい意気込みだ。
同じペースで頑張っちゃっているのが秋の速度かもしれない。もう吐く息は白い。北の方では朝晩の気温が零下になっていたりする。見た目は秋だけど、肌に刺さる空気の冷たさは冬のようだ。フィンランドにいると、楽しいことも辛いこともひっくるめて、自然にふりまわされっぱなしな生活をしているなあ、と思うことが多い。

タンペレ市にあるムーミン谷博物館は、作者トーベ・ヤンソンが描いた原画と、彼女の大親友トゥーリッキ・ピエティラが精魂こめて作ったジオラマが選りすぐりで展示されている。今年5月にテーマがかわり、「自然」に焦点をあてた展示になった。トーベの描く生き物や小さな草花といった森の中にひっそり生きるイノチに焦点があてられている。もちろん、彼女が描く大きな大きな自然の猛威だって登場だ。ジオラマもまた、こんな絵に囲まれていると味わい方が違ってくる。ストーリーを思い出したり話を膨らませるだけでなく、冬の風景にぽっと照らされている火のあかりの暖かさが体に伝わってきたりするのだ。

『ムーミン谷の夏まつり』に登場する劇場が博物館の目玉のひとつとして再現されているのだけれど、これがバージョンアップされていて、周囲の風景まで作り込む凝りようだ。ここにはお姫さまや王子さまの衣装なんかがあって、子供が勝手にそれを着て、舞台で演じてもいいし、誰かになりきって絵を鑑賞していたっていい。そしていい年こいてやってしまいましたよ、大人だけのグループで。工夫次第で、子供サイズの服も着こなせてしまうものだ。係の人は表情を変えることなく舞台の横におとなしく座っている。写真撮影ここだけはいいわよ、なんてことまでやさしく教えてくれたりして。大人だって楽しみたい。係りの人もやったことあったのかな。いや、フィンランドでは、これって当たり前のお楽しみだったりするのか。空気が乱れることなく時が過ぎていく空間を素っ頓狂な衣装をまとって見回していると、そんな風に思えてきてしまう。ここは展示される絵が子供視点で低い位置に設定してあるので、なんとなく子供心を取り戻しやすい環境にあるし。

秋は深まる一方。自然の猛威にふりまわされながらも、痛快かつ豪快に、そしてしなやかで淡々と暮らしていくムーミン谷の暮らしを繰り返し読みながら、これからの心構えでもしようかね。


森下圭子

 

フィンレイソンの新顔。この柄でエプロンや枕カバー、鍋つかみなどもあり。ムーミンショップのミーアにもってもらった。ううん、似合う!まあ、彼女の場合なんでも似合うのですが…。
ムーミングッズは大人だけでなく、もちろん子供にも。最近はリュックが充実してきています。ポケットの数と場所に工夫がみられる機能的なものも、やっと登場してきた。手前に見えるタオル…これまたフィンレイソン。