(67)夏はやっぱり島めぐり

夏がくるとつい紹介したくなるソーダーシャール。『ムーミンパパ海へいく』のモデルになったといわれる島だ。フィンランドでも注目され、人気が定着しつつある。この夏フィンランドではムーミンワールドの20周年だけでなく、もうひとつお祝いがある。この島の灯台が150年を迎えるのだ。

ソーダーシャールは夏になると灯台守と呼ばれるスタッフたちが暮らしていて、島や灯台の案内をしてくれる(有料)。定期船で行けばガイドツアーが含まれているので、自然保護区にもなっている島の生態のこと、灯台をとりまく歴史やエピソードが聞ける。たとえばこの灯台ができるまでの話。

このあたりの海はきれいな一本の水平線にお目にかかれないほど、ぽこぽこと小さな島や岩が視界に入ってくる。つまり水面下には今にも顔を出しそうに潜む岩がたくさんあるのだ。ここを航海するのはとても危険で、長らく貨物の航路としては考えられえていなかったそうだ。19世紀はじめの頃の話。少しずつ標識をおき時間をかけ、やがてここに航路を整えていくようになると、周囲を照らしてくれる灯台が必要になる。当時まだロシアの支配下にあったフィンランドだけれど、ロシアとフィンランドの間で灯台の場所をめぐって意見の相違があったものの、結局はフィンランドの意見が通りグロースホルム島に灯台を設けた。フィンランドに17年も暮らしていると、ロシアの支配下にありながらも自分たちの意見をちゃんと通している感じがなんともそれらしいなあと感心するのだけれど、さらに、その灯台が役立たずで終わってしまったことに「さすがフィンランド!」と笑わずにはいられなかった。なんでもこの島の灯台、航路から遠すぎた上に立地が低すぎて、ちっとも遠くを照らしてくれなかったらしい。結局はロシア人が主張していたソーダーシャールに灯台を建てることになり、役立たずに終わったグロースホルムの灯台はてっぺんの明かりの部分をとっぱらい、そこへ屋根をしつらえてあげた。それが円すい状の屋根、そう、あのムーミンハウスの屋根のように。

実はこのグロースホルムのこの建物こそがムーミンハウスのモデルと言われている。残念ながら第二次世界大戦で大破されてしまい、今は一部しかのこっておらず、あの屋根は見ることができない。でも、そうだ、トーベがまだ子供だった頃にはきちんとあった屋根。そしてそれは彼女が子供の頃暮らしていたペッリンゲの住まいからも比較的簡単に立ち寄れる島だった。フィンランド人が言い張って実現させたのに、あっさりとお役御免になってしまった元灯台、そして戦争で大破されてしまった建物……緑が茂る森の中にひっそり建つそこへムーミンたちを住まわせたことは歴史的な背景を聞いてからだと、ますます愛おしく思われるのだ。

森下圭子

火曜日と木曜日はマーケット市場から出る船でソーダーシャールに行ける。『ムーミンパパ海へいく』に登場する場所を探してみるのも楽しいかも。
http://www.royalline.net/articles/351/

フィンランドは海にでると小さな島があちこちにある。ムーミンやトーベ・ヤンソンの絵によく登場する海の風景に小さな島がよくでてくるのも頷ける。夏には気軽に海にでられる船旅やクルーズがたくさん。旅のついでに、ぜひ。