(63)氷と凍てついた世界

気温がぐんぐん下がっていく。−20℃の世界。木の枝にこんもり乗っかった雪だって、強い風のひと吹きでさらわれてしまい、一瞬にして目の前の森の風景が変わってしまう。毛糸の手袋に飛んできた雪は、姿をかえず結晶のままでじっとしている。雪同士がくっつけないほど寒いのがフィンランドの真冬だ。

アパートの最上階なため海からの風を遮るものがほとんどなく、おまけに窓が大きいアトリエハウス。トーベ・ヤンソンはそのアトリエでもこもこに着膨れながら絵を描いていたという。寒いのが苦手だったトーベだけれど、ヒーターをアトリエ部分に入れることはなかった。小さなストーブの熱を住居部分にしっかり確保するためアトリエとの仕切りのドアは閉め切っていたというから、アトリエはまったく暖のとれない空間だったということになる。

冬というと長い闇夜の冬の日々を連想し、ついうんざりしてしまう。でも年があけて寒さがぐんと厳しくなる頃のことを思うと、辛いことばかりじゃないなと改めて思う。凍てついた空気の中で真っ白な雪たちが小さな風にさらさらと応えている様子だとか。そして雪がさらさらするほどの寒い日々が続くと、やがてあちこちに氷の世界が現れる。まるで鍾乳洞の風貌でごってりした氷が岩にこびりついている。雪の下でツルンといたずらするかのように隠れている氷、誰かの家の前には雪玉の変わりにバケツに水を入れて一晩おき、真ん中の水の部分を捨てて作る氷のキャンドルホルダー。雪だるまの代わりは氷の彫刻。雪がまとまわらない寒さでは雪だるまが作れないので、氷に鋸をあてたりして動物だとかを彫る。太陽の光を撒き散らすように反射させる雪と、太陽の光をやさしく揺ら揺らと通す氷。氷が寒さの極まった冬を代弁するように自己主張をはじめる頃、ふと思うのだ……そういえば、ずいぶんを日が長くなったね、と。フィンランド、2月のどこかで人は一度は「ああもうすぐ春がやってくるのか」という気持ちを抱いているのではないかと思う。そんな春の訪れを誰よりも早く敏感に感じるのは、実は寒さが極まった瞬間を繊細に感じることなのかもしれない。創作の現場に暖を持ち込まなかった芸術家の幸せそうな瞬間をつい想像し、羨ましく思うのだった。

森下圭子

ストックマンデパート150年記念の特別包装紙。紙が終わるまでだけの限定ですが空港のストックマンショップでも使われるようです。もし空港でもいいのでフィンランドに立ち寄ることがあればぜひ。

発売と同時に全国の郵便局で完売続出といわれた切手。ひょっこり出てきたのだそうで、この切手にあわせて作られた封筒に貼られ、初日の特別消印付き。2月にはいり郵便博物館に突然登場しました。