(80)世代から世代へ

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これは、アウロラ病院にあるトーベ・ヤンソンの絵。検査のために仰向けになった子供たちにと描かれた天井の絵。当時は小児病院だった

ムーミンを好きになる入り口はまちまち。ムーミンシリーズがでて間もない頃、フィンランドではムーミンが舞台化され、やがてコミックが登場した。比較的早い段階でムーミンはいろん形で表現されることとなり、ムーミンの潜在的な可能性を感じた人は一人や二人ではなかったようだ。案の定50年代になると、ムーミンのついた物を売ったり、ムーミンの姿をした人形が作られるようになる。誰からともなく始まったムーミンで商売する人たちを、とりまとめる必要がある。こうして50年代のうちにムーミン・キャラクターズ社ができ、ムーミンやムーミンの権利を保護するようになった。当時はトーベ・ヤンソン本人が行っていた。

ムーミンを好きになる入り口がまちまちだと、たとえばアニメでムーミンが好きになったけれど、まだ原作には縁がないとか、原作で大好きになったけれどコミックはまだ読んでいないなどある。グッズもデザイン的な魅力で手にした人などは、ムーミンの背後にあるさまざまなストーリーに触れる機会がなかなかないかもしれない。でも小さなことがきっかけで、ムーミンの別の世界を垣間見たり、好きになったきっかけとは別の魅力を知ったり、ムーミンにはいろんな要素がある。

ムーミンキャラクターズ社社長の話だと、ムーミンをキャラクタービジネスとして考えたときに、ムーミンは多くのキャラクターが苦労している課題を難なくクリアしているという。課題とはキャラクターを一過性のものに留めないでいるにはどうすればいいのか、ということ。世代や客層が限定されずに、世代から世代にきちんと受け継がれていくにはどうすればいいのかということだ。

それは文学的な背景であり、キャラクターに裏づけされた文学性の有無が大きな決め手なのだろうという。ムーミンは原作だけでなく、多面的にさまざまな形で文学的な背景や文脈を育ててきた。親から子へ、またその子へ...確かにフィンランドではすでに半世紀以上に渡ってムーミンが読み継がれ、愛され続けている。私じしん、今年もまた初めてうかがうサマーハウスで、いつの時代かの子供が挿絵をぬり絵にしてしまった古いムーミンシリーズを見つけた。

森下圭子

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8月生まれのトーベは島で誕生日を迎える。ここは大きなお祝いをしたグスタフションさんの作業場。トーベたちが愛用していたボートはここで造られたもの