(92)子どもたちを冒険に誘うムーミンたち

konsertti楽しい音楽の世界に、つい身をのりだす女の子。このときのリハーサルの様子は、こちらでもご覧いただけます。
https://www.moomin.com/en/blog/greetings-rehearsals-moomin-family-song-spree/

先日音楽大賞の発表があり、子供向けベストアルバムにムーミンが選ばれた。全17曲書き下ろしの『ムーミン一家の歌ピクニック』。これをオーケストラ用にアレンジし、ヘルシンキフィルがコンサートするという。最終リハーサルの様子を見に行った。

ヘルシンキフィルによるムーミンコンサートの最終リハーサルには、ヘルシンキ市の6歳児700人が招待されていた。保育園ごとにやってきて次々と席に座る。驚くほど静かなのは、緊張しているのかもしれない。

ところがムーミンソングがオーケストラ仕立てで大げさに演奏されると、そこここで園児たちが大喜びをはじめた。指揮者の真似をする子、体を弾ませお尻が何度となく椅子から浮き上がる子、手を振り踊る子、一緒に歌う子。体いっぱいで音楽を楽しんでいる様子をみていたら、トーベ・ヤンソンが嬉しそうに手を叩き声をあげ、一緒に踊りだしちゃう姿が頭に浮かんできた。トーベを知る人と話していたら、彼女もまさにそんなことを考えていたのだとか。生まれて初めてのコンサートホール、オーケストラという子も多かったと思う。初めての世界をムーミンと一緒に一歩踏み出す様子は、なんだかとても幸せそうだった。みんな、これからも自分なりの音楽の楽しみ方をするんじゃないかな、なんて。

ムーミンバレエは、すでに日本でもSNSで画像が出回っていて、シュールだといわれたり、謎が謎を呼んでいたようだけれども、なんとも正統派のバレエ作品だった。

『ムーミン谷の彗星』を2時間のバレエにする。新聞でのダンス評でも「ストーリーが雑」とあった。確かにストーリーの中からバレエらしい踊りの要素を集めて構成するムーミンバレエは、ストーリーのドラマ的な流れが弱く、話の内容が分かりにくかった。だけど、フィンランドではそれでいいのかもしれない。というのも、『ムーミン谷の彗星』の話はすでに皆知っていることが前提なのだ。子どもたちも、ストーリーについてきている。

それよりも驚いたのは、『ムーミン谷の彗星』の原作に、バレエに詳しくない私ですら分かるバレエ的な要素が、きちんと入っていたことだった。満天の星は純白のチュチュのダンサーたちで、ソリスト(彗星)、群舞(数人ずつが真ん中に出て踊ったり、男女で踊ったり、もちろん勢ぞろいでの踊りも、ニョロニョロもいる)、実はある場面ではプリンス(ムーミン)プリンセス(フローレン)も登場する。トーベ・ヤンソンがバレエを意識していたとは思えないけれど、バレエの要素がきちんと入っているのだ。

ムーミン役のダンサーに言わせると、普段とは体の大きさが違うのに、それが実際には目でほとんど確認できず大変なのだそうだ。距離感など、唯一の手がかりが「手」なのだという。手をとりあいながら距離感をつかむ。

鑑賞後、フローレンのステップを意識した足取りで劇場を後にする女の子を見ながら、ああ、こんな風にバレエに出会うというのもいいなと思った。

オーケストラやバレエ。ムーミンがいつもとは違った形で表現されたけれど、ムーミンに背中を押してもらうかのように、またはムーミンと一緒に、子どもたちはオーケストラやバレエの世界を楽しんでいるようだった。初めての子も多かったはず。なんて素敵な冒険だろう。

ムーミンバレエの画像や動画はこちらでまとめてご覧いただけます。
https://www.moomin.com/en/blog/trailer-sneak-peeks-ballet-comet-moominland/

森下圭子

soomaa
『ムーミン谷の夏まつり』の洪水は、実は雪解け時期の光景が元になったと言われています。雪解けで湖のようになった畑や森、例えば森はこんな感じ。ボートやカヌーで行き来します。