(103)トーベ・ヤンソンと私たちの日常

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ヘルシンキ美術館HAMに常設されることになったトーベ・ヤンソンのフレスコ画

 

2014年にトーベ・ヤンソン生誕100年、翌年はムーミン70年とお祝い年が続き、「特別なことのない今年はどうなるんだろう」、なんてことを考えていたら、1月2月となかなかに華やかなイベントが続いている。

1月の終わり、ヘルシンキ美術館HAMでトーベ・ヤンソンギャラリーという常設展がオープンした。修復を終えたフレスコ画2点、小児病院に描いた壁画の習作、他にも油彩やトーベ・ヤンソンの写真が並んでいる。フレスコの部屋は美術館らしいおちついた空間に展示する一方で、病気の子供たちに向けられた壁画の習作がある部屋は、寛げる空間作りがなされている。ソファやクッションが置かれ、トーベの本があり、お絵かきできるようにと紙やペンまで揃っている。子供たちが、トーベの作品や写真に囲まれて夢中に絵を描く姿は、まるで自分の家で一人遊びに夢中になっているようでもある。フィンランドではトーベ・ヤンソンもムーミンも、今や物心ついた頃から慣れ親しんでいる存在なのだ。だからトーベの展示には、日常の延長のような空間も似合う。子供たちにとっても、絵を鑑賞するというより、トーベの絵に囲まれた中でのびのびと時間を過ごすということは自然なのかもしれない。

2月にはいり、ヘルシンキの小劇場で『灯台守』という芝居が始まった。主題はトーベ・ヤンソンだ。カンパニーの舞台づくりは、トーベ・ヤンソンについて話し合うところから始まった。フィンランドの最近の芝居らしく、舞台にいる3人の女性たちの実生活の経験もストーリーに織り込まれるフィクションだけれど、縦糸になるのはトーベ・ヤンソンだ。

芸術家を志し、気がつけばどこかでトーベ・ヤンソンと自分の人生を比較している。そう始まった舞台は、トーベ・ヤンソンの人生を考察したり、自分たちに向き合ったり、かと思えばムーミンに出てくるキャラクターになったり、人々の日常に垣間見られるムーミン依存が露になる。ムーミンのキャラクターに反映させながらフィンランドの今の社会も炙りだされていく。朝のムーミンマグ選び、本当はラブマグの気分だったのに、気づいたらニョロニョロマグを手にしていて「なぜ?」と自問してしまう、そんな小さな「あるある」ネタまで登場する。

何をどれだけ知っているか、ムーミンやトーベ・ヤンソンについてどれだけ詳しいかではなく、共感すること。自分が共感したムーミンのエピソードのこと、自分をあるキャラクターに重ね合わせてみる、いろんな人のムーミンの感想や好きな話を聞いたりしていると、あっという間に時が過ぎていく。話がつきないのだ。さらにトーベ・ヤンソンの作品やムーミンの世界に新たな発見があったり、何かをいっそう深く考えるきっかけになる。芝居を見ながら、あるあるネタで笑い、ムーミン愛の行き過ぎた感じ、日常に見かけるムーミン的なこと、さまざまな場面で一緒に笑いながら、改めてトーベ・ヤンソンという存在は、生活の一部とまでは言わないまでも、フィンランドの空気の中にふわふわと漂っているものなんだろうなあと思った。舞台の制作秘話については、またいつか改めて。

もう一年以上も前のこと、大きな火傷をしてしまい病院に行ったことがあった。手当てをしてくれた看護師さんは唐突に、「私とあなたには共通点が一つあるの」と嬉しそうに言ってきた。私はムーミン柄のワンピースを着ていて、看護師さんはムーミンを指さしてニコリと笑ったのだった。

ヘルシンキ美術館HAMトーベ・ヤンソンギャラリー
http://www.hamhelsinki.fi/exhibition/tove-jansson/

小劇場Avoimet Ovetの舞台『灯台守』
http://www.avoimetovet.fi/

森下圭子

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トーベ・ヤンソンギャラリーの一角はリビングルームのよう