(60)冬ごもりの前に

海が凍ってしまうフィンランドの冬。人は行く手だてがなく、島は冬眠するように静かになる。ムーミンパパの灯台の島にも、しばしのお別れを告げるときだ。冬になる前に、大掃除しようということになった。

冬眠前のムーミンに描かれているように、いろんなものに布をかぶせ、小屋や思い出の場所に「おやすみなさい」と声をかけるロマンチックなものを想像していたけれど、実際は大違い。肉体酷使の大掃除になってしまった。原因は池。『ムーミンパパ海へいく』に登場する「黒い池」の挿し絵のモデルと思われる貯水池を、数年ぶりにきれいに掃除しようということになったからだ。そして私たちはじゅうたんのような藻をひっぺがし、その下にびっちり広がるヘドロで全身ヘドロまみれになった。見たこともない生き物がうごめくヘドロの世界。掃除するにあたって池の水をポンプで吸いだしたので、ムーミンパパが知りたかった池の深さはばっちりわかった。でも水を完全に空にしようと少し残った水を必死に掻いても、どうしても水が底をつかない。そのうち透明な水で嵩が増してきて……ひょっとして岩の窪みと思っているけど、湧き水が出ているのでは?……そんな新たな謎が増えてしまった。ムーミンパパ、やっぱりこの池はやっかいです。

秋が深まったこの時期、夜はあっという間にきてしまう。電気もない島の夜だ、外で作業ができなくなる。暗くなったらサウナに入ってご飯を食べ、あとは眠くなるまで何となく話をして夜を過ごした。

メンバーの中には夏にこの島で暮らしていた人たちがいたこともあり、やがてここの小屋にはアレがでるらしいという話になった。なんでもこの小屋では、姿の見えない人の声がヒソヒソするというのだ。姿はないけど気配がある。キッチンのあたりで腰掛けて、何人かで談笑している声や雰囲気。こんな話がひとしきり続いていくけど話すほうも聞くほうも、妙に淡々としている。そりゃあそうだよ、ここには長い歴史があるんだもん、と当然のことのように受け止めているのだ。確か見知らぬ人間が小屋に侵入してくるほうが怖い。

ふだんは幽霊なんてまっぴらご免な話題なのに、岩のへりにぽつんと建つトイレに行くことも、それほど怖くはなかった。便座に座ればぼっとん便所の下からお尻にむかって風がビュービュー吹き上げてくる。でも何だか大丈夫だ。私はあの話を幽霊というよりご先祖さまの気分で聞いていたのかもしれない。ここに住みついているご先祖さまたちが、きっとこの島を守ってくれているんだ。そんな気持ちになりながら一人暗闇で、強風と岩にうちつける激しい波の音に包まれて用を足していた。

森下圭子

池の底はさらえてもきりがない。ムーミンパパが手こずっていたけれど、大人が5、6人集まっても手におえなかった。

島での暮らしはゴミもなるべく少なくしたい。燃やせるものは燃やしてしまおうということで、懐かしいドラム缶の登場です。こんな楽しい細工。炎のゆらめきがニョロニョロのシルエットを作るなんて、いつか見てみたい。