(25)ひっそりとトーベ・ヤンソン

 

庭の隅でぽつりと佇む木造の小さな厠。そこに何十年とそのままだった「最初のムーミン」と言われる落書きのことを思い出す。ムーミンもトーベも特別なものでなく、日常の一部というその感じ。アトリエがあるアパートの屋根裏が物置から住宅に改築されたときに、あっさりなくなってしまったムーミンの落書き。「最初のムーミン」も、いつそれが色あせて消えてなくなってもおかしくない状態だった。その後これは専門家たちの手によって修復され、現在は別のところに保管されている。

とつぜん意外な人の何気ない一言で、トーベ作品に巡り合うことがしばしばある。こんかいはデッサン。それも教えられた博物館にいって聞いてみたら、受付のおにいさんが全く知らずにいたという。「え、そんなのあった?え、トーベ・ヤンソン?ムーミンの?」…あいかわらずトーベ・ヤンソンはひっそりこっそり潜んでいるらしい。でもこの宝探しのような茸狩りのようなのが楽しい。

ヘルシンキ大学の大学博物館にブツはあった。本当にひっそり。一つの額に4つ、4人の芸術家たちのデッサンを並べてある。この潜み具合ときたら。何度か素通りしてしまって、せっかく教えてくれた友人の情報を「あの人は幻を見ていたのかもしれない」と思ってしまったほどだ。46×29cmの木炭デッサン。女性の裸体を後ろから描いたもの。詳細はわからないのだけれども、館長さんの話だと、彼女がヘルシンキ大学でデッサンを勉強していた1943年秋学期~1944年春学期の時のものではということだった。こういうデッサンのオリジナルがいつでも鑑賞できるなんて。

この大学博物館はヘルシンキの穴場スポットです。建物じたいがクラシックで、ムーミンに出てくる調度品の世界に近い気がする。展示物も面白くて、石がずらーっと並んでいるところでは、ついつい石が大好きだったトーベのことを思い出したりしていた。昔の治療台、動物用の救急棚、昔の手芸のパターン、いろんなものがいっぱいあって、角を曲がるとぜんぜん違う世界があって…ほんと、森の中を散策しているくらいに面白かった。

大聖堂の脇にあるのに、この前なんて私ひとりしかいないという…なんとも静かでのんびりしてて、どこかあったかい雰囲気の博物館。カフェも周辺のカフェの料金と比べてかなりのお手ごろ価格だし、ゆっくり手紙を書いたりするのにもいい場所かもしれない。

森下圭子

トーベの父ヴィクトルの彫刻。忘年会でゴキゲンになった酔っ払いが、自分のを被せてあげたのか。花もなく水もでない冬の噴水は寂しいものだと思っていたけれど、今年はかわいさアップで素敵なクリスマス仕様に。
トーベ・ヤンソンのデッサンが展示されているヘルシンキ大学博物館。
所在地:Snellmaninkatu 3
サイト:http://www.museo.helsinki.fi/english/index.htm