(86)トーベ・ヤンソン生誕100年のお祝い
フィンランディア・ホールで行われたお祝いから。この日の最後はサプライズ。まるで歌い踊るように次々と花火が打ち上げられた。
フィンランドでは1月30日がトーベ・ヤンソンの生誕100年を正式発表し、お祝いする日となった。日中はマスコミ向けの発表があり、夜はトーベ・ヤンソンの親族や仲間たちをはじめ、現在ムーミンに携わる仕事をされている人たちが集まり、記念年を祝った。
この日のためにイギリスやスウェーデンからもゲストスピーカーが招かれた。「なにかいいこと!」が大好きだったトーベ。パーティーを開くことやお祭り騒ぎが大好きで、よく歌い踊ったという。自分がこうしたいと思ったことをずっとずっとやり続けたトーベを彷彿させるスピーチ、芝居にも深く関わったトーベに向けた友人でもある女優の小さな音楽劇。大自然のただ中で生きたトーベの暮らしを体験した作家のスピーチ、そして戦争に翻弄されたトーベの時代を考えさせるスピーチもあった。
トーベとの時間が子供時代だった人も大人だった人も、長らく一緒だった人たちも、一様にトーベのユーモアと話上手について、楽しそうに話してくれる。文章だけでなく、軽口をたたいていても、旅を語っていても、何かのエピソードを語っていても、情景がありありと浮かぶ愉快で楽しいトーベの話術を多くの人が覚えている。
そんなトーベのように多才でと紹介されたボイス。最近ではロンドンオリンピックのセレモニー台本で注目された作家だ。愛する妻はミイにそっくりで、大のムーミン好きといって、ムーミンが教えてくれたいくつかのことを語ってくれた。軽快で、思わず笑ってしまうのだけれど、心に響く。まさにトーベのお祝いにぴったりのスピーチだった。
いやあ、フィンランドっていうのはトーベが作ったものなんだと思ってたんだよ、なんて始まったものの、次々とムーミンに学んだことを話してくれた。たとえば小さなことに気づくこと。小さなものを見つけては喜んだり好奇心を向けること。パーティーは大切だっていうこと。男はこう女はこうなんていう先入観を取っ払っちゃうこと(一番繊細でナイーブなのはムーミンだよね)。主人公だけでなく、全員が冒険していて、あの中のヒーローってムーミンママだよね。とにかくどんな見た目のどんな生き物もみな重要だってこと。何よりもムーミンは幸せになることを教えてくれたという。冒険譚というと勝つだ退治するだ手に入れるだのが多いのに、ムーミンはそんなこと、どうでもいいのだ。幸せになること、どういうことが幸せになることなのかを教えてくれたとボイスは語った。
そんな作品を発表し続けたトーベ・ヤンソンがどんな人だったのか。この一年はさまざまな形で紹介されると思う。
2月8日から、トーキョーノーザンライツフェスティバルという北欧映画祭では、トーベの世界旅行や島暮らしについてのドキュメンタリー作品が上映される。実はこの映画、個人的に日本でいつかちゃんと紹介させていただきたいと18年願い続けていた夢でした。今回は少しお手伝いさせていただけることになり、監督と一緒に日本に行きます。フィンランドでは爆笑につぐ爆笑だったこの2作品、日本でどんな風に観ていただけるのか楽しみです。
森下圭子
1月31日に発売されたトーベ・ヤンソンの記念切手