ムーミンの初めての冬
12月にもなると、ムーミン谷はすっかり雪に閉ざされてしまいます。今回は、そんな冬のムーミン谷を舞台にした小説、その名も『ムーミン谷の冬』(講談社刊/山室静訳)をご紹介しましょう。
ムーミンたちは寒さに弱く、ムーミン谷の冬はとても厳しいので、11月から4月まで、暖かいムーミンやしきで眠って過ごします。ところがその年、冬眠中のムーミントロールの顔をお月さまの光が照らしました。すると、なぜだかムーミントロールは目を覚ましてしまい、それっきり眠れなくなってしまったのです。ムーミントロールはムーミンママのベッドのところまで行って、そうっと耳をひっぱってみましたが、ママは目を覚ましません。次の日の朝、ムーミントロールはスナフキンに会いに南へ行こうと思い立ちました。しかし、ドアも窓も、凍りついて開きません。屋根裏の窓から外に出ようとしたムーミントロールは屋根の上を転がり落ち、見たこともないふしぎな世界に投げ出されて、耳まで雪の中に埋もれてしまいました。あたりは一面、白一色。生きものの気配はなく、灰色の薄明かりに包まれていました。西の海べの近くで、素晴らしく立派なしっぽを持った一匹の若いりすが、ぴょいぴょいとはねていました。自分の巣の寝心地が悪くなって、外に飛び出したのです。あちこちと飛びまわった子りすは、ほらあなの中に段ボール箱を見つけました。ふわふわした暖かな毛のかたまりをどんどんひっぱりだしていると、いきなり誰かが噛みつこうとしたではありませんか。箱から頭を出したのは、怒ったような顔つきのちびのミイ! ミムラねえさんと冬眠をしていたミイは、子りすに起こされてしまったのです。
南をめざして歩き始めたムーミントロールでしたが、一足ごとにずぶずぶと雪の中に沈んでしまいます。心細さと怖さから泣きそうになったとき、林の向こうに優しい赤い光を見つけました。そこにいたのは、赤と白のしましまのセーターを着て、赤いぽんぽんのついた青い帽子をかぶったおしゃまさん。雪玉のランプをこしらえたおしゃまさんは、「オーロラ(北極光)はほんとにあるのか、あるように見えるだけなのか、知ってる?」とムーミントロールに問いかけました。ムーミントロールはベランダのそばに、見たこともない真っ白なうまを見つけました。近寄ってみると、それはおしゃまさんがこしらえた雪のうま。おしゃまさんは、見たものを凍りつかせる氷姫がやってきて、そのうまに乗って走り去るのだと言いました。生まれて初めて、冬の世界を知ったムーミントロール。彼のひとりぼっちの冒険は、春が来てムーミンママたちが目を覚ますまで、まだまだ続きます。さて、今年3月にオープンして初めての冬を迎えたムーミンバレーパークでは、この『ムーミン谷の冬』の物語をモチーフにした期間イベント「WINTER WONDERLAND in MOOMINVALLEY PARK」を開催中。ほら、ムーミン屋敷の横には挿絵から抜け出してきたかのような雪のうまの姿が! 昼間は、園内をゆっくり歩きながら、あわてんぼうで忘れっぽいりすの落とし物を集め、問題を解いていく「冬のおさんぽラリー~りすをさがして~」。夏の謎解きよりも難易度が低めとのことなので、お子さまもいっしょに楽しめそう。また、1月上旬からは現実の音と仮想世界の音が混ざり合う新感覚Sound AR™「サウンドウォーク ~ムーミン谷の冬~」も始まるとか。あたりが暗くなると、園内のあちこちに幻想的なライトが灯り、いよいよ冬ならではのイベントの始まりです。18時半から1日3回行われる「ムーミン屋敷のプロジェクションマッピング」は、約10分間にわたって、音と光の演出で見るものを冬の世界へといざないます。おしゃまさん、めそめそ、ヘムレンさん、モランといった冬のムーミン谷の住人たちが次々に顔を見せ、オーロラのような不思議な光がムーミン屋敷を包み込みます。幻想的な演出でムーミントロールが恋しく思う夏のムーミン谷も垣間見ることができますよ。ムーミン谷のウィンターツリー「ツリー オブ オーケストラ」 も登場。美しいツリーに大喜びしたはい虫たちが木に登って遊んでいる様子がかわいらしいですね。こちらは短編集『ムーミン谷の仲間たち』収録の「もみの木」で描かれた、クリスマスを知らないムーミンたちが飾りつけたツリーをイメージしたもの。このエピソードは映画『ムーミン谷とウィンターワンダーランド』や絵本『ムーミン谷のクリスマス』(徳間書店)でも描かれています。地面に投影されたカンテレなどの楽器の赤い光を踏むと、その楽器の音が出る仕掛けで、楽器は12種類あります。まわりのみんなと協力し合って、オーケストラの荘厳な音色を聴いてみてください。湖沿いには、「あいまいなものの道」と名づけられた、雪と氷の道が。雪道をザクザクと踏んで歩いていくと、雪がさーっと払われて、冬の生きものたちが次々に出現! 行ったり来たりして、いつまででも遊んでいたくなります。
これまでは夕暮れには行けなくなっていたおさびし山エリアにも「雪玉のシアター」が登場。頂上に天文台のあるおさびし山に、さまざまな生きものたちの姿が浮かび上がります。
さらに、スナフキンのテントまで進むと……あれ? ハーモニカの音が聴こえてきますよ。開かれたテントの奥には、ランプに照らされたシルエットが! ずーっと眺めていると、誰かさんが遊びに来ることもあるみたい。これは、南を旅するスナフキンに会いたいと願うムーミントロールの夢、でしょうか!?
さらに、冬限定のグッズ、ワークショップが用意されているほか、ムーミン谷の食堂では限定の「ウィンターワンダーランドプレート」を味わうことができます。アーケードゲームの景品ピンバッジも、雪玉を眺めるムーミントロールとおしゃまさんのイベント仕様に。昼も夜も、1日では遊びきれないぐらい充実した冬のイベント。ナイトチケットやファンクラブ会員限定「パスホルダー付き1デーパス」など、お得なチケットの種類も増えましたから、ぜひ何回も足を運んで、ムーミントロールになった気分で初めての冬のムーミン谷を探検しましょう! 『ムーミン谷の冬』だけに出てくる、ちょっとマニアックな生きものたちの存在も演出に取り入れられているので、原作を読んでいけばイベントがより楽しめること間違いなし! また、豊かな自然も魅力のひとつであるムーミンバレーパーク、空気の澄んだ冬は星空もとてもきれいで、流れ星を見た!という声も聞かれました。ただし、夜は特に冷え込みますから、くれぐれも暖かい服装でお出かけを。ムーミントロールと違って、わたしたちには暖かい冬毛は生えてきませんから……。
萩原まみ(文と写真)