スナフキンの宝物って何?
今月のムーミンクイズはスナフキンに関する問題です。スナフキンが唯一、大切にしている宝物とはいったい何でしょうか?ちなみに、ムーミンの公式Twitterアカウント連動ムーミンクイズプレゼントの今回の賞品はなんとスナフキン 旅人のリュックサック! リュックサックやテントも大切な旅のお伴ですが、スナフキンが好きでたまらないものといえば……? ぜひ最後までお読みの上、プレゼントにもご応募くださいね!さて。ムーミン谷の住人たちの中には、物を集めたり、強いこだわりをもっていたりするキャラクターが意外に大勢います。代表的なのは、欲張りでキラキラした物が大好きなスニフとガラクタやボタンコレクターの両親、切手や植物や虫などを収集しているヘムレンさん。ムーミンママは、あると便利な物がつまったハンドバッグをいつも肌身離さず持っているだけでなく、ちょっとしたピクニックでもあれやこれや持参しようとします。フィリフヨンカ族の女性は代々受け継いだ物を大切にしなければと思い込むあまり、好きでもないたくさんの物に囲まれて暮らしていることも。ムーミントロールやスノークのおじょうさんは、素敵なプレゼントを贈り合ったり、海辺に打ち寄せられたきれいな物を探したりすることを楽しみます。逆に、物に執着がないキャラクターの代表といえば、なんといってもスナフキン! 定住する家すら持たず、ムーミンやしきに滞在していないときはテントで暮らしています。
スナフキンが初登場する小説『ムーミン谷の彗星』には、彼の考え方がよくわかる場面がいくつも出てきます。ムーミントロールとスニフが初めてスナフキンと出会う場面は以前のブログでも詳しくご紹介していますが、その時点ではスナフキンはテントなどの荷物を持っていました。しかし、その後、川下りの最中に濁流に飲まれそうになって、コーヒーポットをいかだに置いてくるはめに。コーヒーの大好きなムーミントロールが「コーヒーなしで、どうしたらいいんだ!」と叫ぶと、スナフキンは「パンケーキを食べるのさ」と答えます。そして、そのパンケーキ・フライパンも、ポットと同じ運命をたどることに……。みんなは夜通し、歩きに歩いたのです。スニフがぐずぐずいいだしました。
「くたびれたよう。つかれちゃったよう。もう、このテント運びを、かわってよ。パンケーキ用フライパンもさ」
すると、スナフキンが答えました。
「それはいいテントだが、ものに執着せぬようにしなきゃな。すててしまえよ。パンケーキ・フライパンも。ぼくたちには、用のなくなった道具だもの」
(新版『ムーミン谷の彗星』/講談社刊/下村隆一訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)
その後、スノークとスノークのおじょうさんと知り合い、いっしょにムーミン谷へと戻ることになった一行は、森の中の売店に立ち寄りました。みんなが思い思いに欲しいものを探すなか、スナフキンは「ぼくは、あたらしいズボンが、一つあったらいいんだけど。あたらしすぎちゃ、だめなんです。ぼくの形になじまなくて、落ちつけないんで」(『ムーミン谷の彗星』)とズボンを探してもらいます。売店のおばあさんが屋根裏から引っぱり降ろしてくれた、その店でいちばん古いズボンは、それでもスナフキンには新しすぎました。
「このズボンはやっぱり、ここでもっと古くしたほうがいいと思います。ぼくにはぴったりこなかったので」
「それは残念だこと。でも、ぼうしはあたらしいのがいるでしょ」
スナフキンは緑色の古ぼうしをいっそう深くかぶり、おびえたようにおばあさんにいいました。
「ありがとう。でも、今も考えたんだけど、持ち物をふやすというのは、ほんとにおそろしいことですね」(『ムーミン谷の彗星』)ムーミン谷にたどりつくと、大事な物だけ持って、みんなでどうくつに避難することになりました。ムーミンパパはスノークに引っ越しのまとめ役を頼みます。
「(略)みなさんの持ち物リストがほしいですね。好きでたまらないものには星を三つ、ふつうに好きなものには星二つ、なくてもくらせるだろうと思うものには星を一つつけてください」
「ぼくのリストはすぐにできるよ。ハーモニカに星三つさ!」
スナフキンは、そういって笑いました。(『ムーミン谷の彗星』)
クイズの答えは、ハーモニカでした! ちょっと簡単すぎたかもしれないので、もうひとつ、クエスチョン。スナフキンはそのハーモニカをどんなふうに手に入れたのでしょうか?
4月21日に新版発売予定の『ムーミン谷の仲間たち』(講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集)に収録されている短編「スニフとセドリックのこと」で、スナフキンはスニフに、スナフキンのママのおばさんに実際に起こったことを話して聞かせます。
おばさんはあるとき、カツレツの骨を喉に詰まらせて、それを取り出すことはできないとお医者さんに言われてしまいました。自分に残された時間はあと二、三週間だと知ったおばさんは、それまで集めてきたたくさんの美しい物を親戚や友達にすべてあげてしまおうと思いついたのです。そのとき、スナフキンがもらったのが、金とジャカランダの木でできたハーモニカでした。スナフキンとハーモニカをめぐるお話では、同じく短編「春のしらべ」も有名ですね。春の新しい歌を作ろうとする様子は、Bu-ray&DVDが好評発売中の新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』シーズン1の第2話でも描かれています。第3話「世界でいちばん最後の竜」には、スナフキンがハーモニカで鳥のさえずりと競演する(?)コミカルなアニメオリジナルの場面も。
ムーミンシリーズ最後の作品『ムーミン谷の十一月』には、ちょっと意外なエピソードが登場します。
ムーミンやしきに集まった者たちがパーティーを開いた後、スナフキンはハーモニカをテーブルの上に置き忘れていったのです。それを見つけたのは、スナフキンが奏でるハーモニカの音色に、いつも耳を傾けていたフィリフヨンカ。自分でもあまり気づいていなかったけれど、実は音楽好きだったフィリフヨンカは、ハーモニカを手に取り、何時間も何時間も、我を忘れて吹いたのです。静かなムーミン谷のこと、きっとその音色はスナフキンの耳にも届いたはず。でも、スナフキンは宝物であるはずのハーモニカを取り上げようとはしませんでした。そもそも、スナフキンがハーモニカをうっかり忘れるというのも変ですから、もしかしたら、フィリフヨンカに貸してあげようとわざと置いていったのかもしれませんね。ムーミンのお話はよく、読むたびに新しい発見がある、読むタイミングによって心に響く箇所が変わると言われます。
フィリフヨンカはハーモニカを吹くことで、穏やかな気持ちを取り戻しました。
地球に迫り来る恐ろしい彗星の正体を見極めるため、ムーミントロールとスニフは天文台へと向かいます。旅の途中、スナフキンはみんなを励まし、気分を変えるためにハーモニカを吹きました(残念ながら、湿気で音が出なくなってしまいましたが、「きっとパパがなおしてくれるよ」とムーミントロールが慰めました)。
しんどいニュースが続く毎日。自分にとっての星三つ、好きでたまらない宝物のことを考えて、今を乗り切りましょう。
萩原まみ
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