(197)ムーミンたちに囲まれて【フィンランドムーミン便り】
トーベ・ヤンソンが夏を過ごした群島ペッリンゲ。冬の空に現れたオーロラ。
フィンランドの首都ヘルシンキでトーベ・ヤンソンの足跡を辿るなら、まずお勧めしたいのがエスプラナーデ公園の周辺。トーベが幼少時代を過ごしたカタヤノッカ地区からの通学路があり、公園内には彫刻家の父ヴィクトル・ヤンソンの噴水もある。公園は最初のムーミン劇が上演されたスウェーデン劇場の裏から海へと細長く続いているのだけれど、その劇場の一画にムーミンショップがオープンした。
この辺りの地区は建物の用途や内装がかなり変わっても、外観が大胆に変わることはあまりない。なので、この辺りの散策は、トーベ・ヤンソンが見た風景に近いものを見ていることになる。今も海辺を散歩する人たちがいて、公園でピクニックする人、ベンチに腰かけてひと休みしている人が視界に入ってくると、トーベ・ヤンソンの短篇や、ムーミンの中にでてくるセリフが突然思い出されたりする。
そんな縁の場所にムーミンショップがオープンしたのだ。実はヘルシンキで最初にオープンしたムーミンショップも同じ通りにあったのだけれど、当時はお客さんが二人も入ればいっぱいになるような小さな店だった。その小ささを共有すると、赤の他人でありながら、お互いお気に入りのグッズを紹介し合ったり、妙に近しさを感じたりした。新しいショップはムーミンショップとしては最大規模で、『ムーミン谷の夏まつり』をテーマにして、その世界観を意識した色彩やフォルムで設計されている。非日常の世界に一歩足を踏み入れたような気分になり、そこからゆっくりグッズを見てまわるようなデザインだ。
店を出ても自分の周りにムーミンの世界をまとっているような気分で、そのままトーベ・ヤンソンにまつわる場所を歩いてみたくなる。
ムーミンの世界といえば、挿絵になっている場所が見つかるとか、フィリフヨンカさんにそっくりな格好をしていた女性がいたなど、何かとムーミンを彷彿させるのが群島ペッリンゲだ。トーベが子どもの頃から夏を過ごしていたこの地域で、クリスマスのマーケットやバザーがあったので行ってきた。トーベのようにふだんはヘルシンキで暮らしながら夏になるとペッリンゲにいる夏の住人たちも続々と群島へやって来る。島の道路のあちこちが渋滞し、夏以来で顔を合わせる人たちが懐かしそうに挨拶を交わす。
大騒ぎの一日が終わり、ほっと家の外にでると、空にオーロラが現れた。ムーミン谷の冬でオーロラの話がでてくるなあと思い、森の向こうに見えるオーロラを眺めながら、「海の上でひらひらと輝くのを見てみたいね」と話し、私たちは海の方へと歩いていった。目の前の海はもう凍っているけれど、遠くから聞こえてくるのは海の音だ。こうして自然に近いところで何かを感じていると、どこか私はムーミンにまた少し近づけたような気がしたり、トーベ・ヤンソンの書いた世界に入り込んだような気分になる。
ムーミンショップ最大規模となる店舗がオープン。今回のテーマは『ムーミン谷の夏まつり』。スウェーデンなどフィンランド以外の国のメーカーが手がけるムーミングッズも並ぶ。
Moomin Shop Esplanadi
Pohjoisesplanadi 2, 00100 Helsinki
森下圭子
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