【Y】Yksinäiset vuoret(おさびし山)
ムーミンバレーパークのちょっとディープな情報を、AからZまでのキーワードにして、アルファベット順にご紹介していく「ムーミンバレーパークのA to Z」。
【Y】は、Yksinäiset vuoret(おさびし山)。
フィンランド語では「ユクシナイセット ブオレット」と読みますが、原作のスウェーデン語はEnsliga Bergen、英語はLonely Mountainと表現されており、意味としてはほぼ同じです。(少し話が反れますが、今や多くの日本人が「おさびし山」として認識しているこの山を直訳の「孤独の山」とかではなく、「おさびし山」というムーミンの世界観に合った素晴らしい翻訳をされた先達の翻訳者に本当に頭が下がります)
おさびし山と言えば、小説『ムーミン谷の彗星』。彗星が衝突するかもしれないことを知ったムーミントロールとスニフは、事実をおさびし山のてっぺんにある天文台へ調べにいくため、冒険にでかけます。旅の途中で初めてスナフキンと出会う、ファンにはおなじみの場所ですね。
頂上に着くまでも、急流の川下りや大トカゲのいるガーネットの谷間や深い谷底など、大冒険には事欠きません。この「おさびし山」自体もなかなか厳しい環境の場所であることがわかります。
「あたり一面に、ものすごく大きい灰色のさびしい山々がそびえていました。しいんと静まりかえっていて、寒いほどでした。」
「おさびし山はおごそかにそびえて、深い眠りに落ちていました。峰々は谷間の上でにらみあい、谷には凍りつくようにつめたい霧が立ちこめていました。重々しい山から、ときどき小さな雲のかたまりが流れだして、ゆっくり山腹をすべっていきました。ワシやタカが、この山に巣を作っているのでした。」
「道はずんずんけわしくなり、みんなはだんだん高いところへ登っていきました。見わたすかぎり、はるか昔のような景色は、おそろしいほど大きく、とてもさびしいものばかりでした。」
それから季節が変わり、『ムーミン谷の冬』でも「おさびし山」の話題が出てきます。
スキーに情熱を燃やすヘムレンさんと気が合わない冬の住人たちは考えます。「おさびし山」はここよりずっと高くて、すべるのにいい場所だということをムーミントロールに言わせることでヘムレンさんを追い出そうとします。本当は「底なしの谷や、ギザギザした岩ばかりで雪も積もらない」にも関わらず。そのあとすぐ、罪悪感にさいなまれたムーミントロールは「おさびし山は崖が切り立っていて、雪も積もっておらず、スキーに向かないんです。僕の間違いでした。」ということをきちんと伝えるのですけどね。
おさびし山は、どの季節でも厳しい環境にある、本当にさびしい場所であることが伝わるのではないでしょうか。
飛行おにの帽子をひろった山は「おさびし山」?
ムーミンの原作に出てくる「山」といえば、すべて「おさびし山」であるとも限りません。
『たのしいムーミン一家』ムーミントロール、スニフ、スナフキンの三人がふしぎな力を持つ「飛行おに」の帽子を見つけたのは「山のてっぺん」でしたが、それは「おさびし山」ではないようです。
というのも、その山のてっぺんに登ったときに、
「西には海が、東にはおさびし山をとりまいて、うねる川が見えます。」
という描写がありますので、そこにいる山から「おさびし山」が見えている、ということになりますね。確かに、ムーミン谷の地図の中にも、「おさびし山」ともうひとつの小さい山の上にはよーく見ると、黒い帽子が描かれているのが見えるでしょうか?
おさびし山のモデルはあるの?
長閑なムーミン谷とはまるで別世界の、険しい峰々がそびえ立つ、夏でも寒い「おさびし山」はどこかに実在するのでしょうか?
実は、作者トーベの故郷フィンランドを含む北欧には高山というのがありません。日本で一番高い富士山(3,776 m)と比べたら、フィンランドで一番高い山Halti(ハルティ)は、1,324m。近くの北欧の国々、ノルウェーのGaldhøpiggen(ガルフピッゲン)は2,469 m、アイスランドのHvannadalshnúkur(クヴァンナダルス・フニュークル)は2,109m、スウェーデンのKebnekaise(ケブネカイセ)は2,103m。一般的には、2,500メートル以上が高山と言われていますので、これらは高山とは言えませんね。
デンマークに至っては、平らで山がないことから別名パンケーキの国とも呼ばれており、一番高い山Møllehøj(モレホイ)はたった171mしかありません。
「寒い」という環境は近いのかもしれませんし、スカンジナビアの北の方には崖や岩山もありますし、アイスランドにはおさびし山の谷底のような地球の割れ目と呼ばれるエリアもありますが、さて、真相はいかに。
ムーミンバレーパークの「おさびし山」エリア
残念ながらここ、ムーミンバレーパークで原作「おさびし山」さながらの険しい環境を再現してしまったら、大変なことになってしまいます。勾配があるパーク内で最も自然豊かな一帯を「おさびし山」として冒険と思索を楽しんでいただけるエリアにしました。
湖上を滑走する「飛行おにのジップラインアドベンチャー」や、思いきり身体を動かせる「ヘムレンさんの遊園地」(ここは、原作ではさみしい場所ではなく、「静かな場所」とヘムレンさんは言っていましたね)、など大人も子どもも思いきり五感を使って物語を追体験できるスポットがあります。
それから、スナフキンの痕跡を辿って「スナフキンのテント」へ訪れたり、「灯台」や「天文台」などの物語に登場する象徴的な建物をのんびり散策しながら物語への想像力をかきたてることができます。
ムーミンたちの世界ではいつだって、冒険がつきもの。
パークに訪れるそれぞれのゲストの冒険や挑戦の場所、それがムーミンバレーパークの「おさびし山」エリアです。
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株式会社ムーミン物語
川崎 亜利沙
(text by Arisa Kawasaki, Moomin Monogatari ltd.)