(33)夏のあそび、夏の風景

庭の先に海があって、すぐそばには森がある。どっしりとした構えの木造の家は、昔ながらの赤土色で塗られている。庭には立派な枝ぶりの大木があって、木登りだけでなく、腰かけて自作童話を朗読するのにぴったりで。森の入り口には自分がひっそりかがんでるのにぴったりの洞窟だってある。普通にいつも使われている家に夏の間だけ住まわせてもらおう……このパパのひらめき、よくよく考えてみると突拍子もないことをまた!という感じだ。でもこれこそがトーベ・ヤンソンの子供時代の夏だった。

私事なのですが、今よく似た状況で生活してます。友人一家が家を離れている間、お留守番として住まわせてもらっている家の環境といったら。庭の先に海があって、赤土色の昔ながらのどっしりとした家、庭の大木、森、洞窟。似てるって思っているのは私だけかもしれない。そもそも場所はラップランド、北も北、北すぎる。でも私が世話するニワトリに始まりご近所で優雅に佇む馬たち、川辺でいつまでも草を食んでる羊だち、そして牛たち。それから近所のどこかしらの犬が猫がある日ちゃっかり庭で休んでいたり……ここまでくると、かつて見せていただいたことのあるトーベが小さかった頃に描いた絵の要素、見事に勢揃いなのだ。大きな板にマジックで描かれた「わくわくペッリンゲ地図」というか、彼女の暮らす環境をひとつにまとめた絵。
その絵は牧歌的な感じをとりたてて崇めるような都会の芸術家っぽい偏りもなく(フィンランドではよくあるらしいけれど)、でもそれが日常にまみれてしまうこともない。ほどよく夢があってほどよく日常性があって。

彼女の夏には、そこでの暮らしが当たり前でその環境が日常になっている人たちがそばにいる。動物だって夏だけそこにいるものとそうでないものがいる。いろんな目線といろんな状況にある人や多くの生き物たちが一緒に生活している。いろんな個性やいろんな生き方のあるムーミン谷って、やっぱりこういう子供時代の暮らしがあってこそかもなあ……なんて考えたりしながらムーミンを想うラップランドでの毎日。森の中でぽつりもいいけれど、こういう夏も楽しい。パパのひらめきに、こんな夏の選択肢に今さらながら感激しています。


森下圭子

 

田舎の小さなお店にはいると、いつのかしらというようなカードがたくさん並んでいる。夏なのに何年も前のクリスマスカードとか。そんな中から見つけたカード。右のカードは文字もラルス・ヤンソンが手がけている。

フィンランドの夏の遊びに、フィンランドの夏の旅にムーミンありというくらい、ムーミンは夏の定番になっています。