(34)ムーミンスポット

ムーミンのスポット、作者ゆかりのスポット……ムーミンが大好きな人たちが行きたいところは、きっといっぱいあると思う。そんな中でトーベが「ムーミンの好きな人たちのために」作ってくれた場所がひとつある。それがムーミン谷博物館だ。

ムーミン谷博物館はヘルシンキから列車で2時間ほどの北、タンペレ市にある。ヘルシンキ生まれでヘルシンキ育ち、夏は幼少時から島暮らしだ。タンペレってトーベとは縁がないような。何故タンペレなのか、なぜそこにムーミンの場所をトーベが作ったのか不思議だった。

実はトーベ、ヘルシンキ市に寄贈の打診をしていた。ヘルシンキは是非ともその寄贈を受けたかった。でもトーベには条件があった。「ムーミンはいつでも人が見にこられるようにしてください」……つまり常設できる場所がなければ、作品の寄贈はしないということだ。残念ながらヘルシンキにはその用意がなかった。

そこへタンペレがタイミングよく浮上してきたのだ。トーベのアトリエや島の小屋を手がけたピエティラ夫妻設計のタンペレ市立中央図書館が完成しつつあった。地下には書庫予定の部分があって、そこに注目したのだ。書庫空間だから暗い、下水管も丸見えでザザーっと水の流れる音が響いてきたりもする。天井も低めだ。ピエティラ夫妻はじめ、トゥーリッキもトーベも、そんな書庫の不利を活かした。薄暗さは森の中にいるように、木漏れ日のように絵に差し込むやわらかい照明、唐突に響く豪快な水の流れる音は想像力と冒険心を刺激してくれる。子供の目線で低めに設置されている立体模型や作品の数々は腰をかがめて鑑賞する大人に子供心を取り戻させてくれる。

トーベはムーミン好きの人々の、ときに怖くなるほどの熱意に直面しなくてはならないことが何度となくあった。夏の島暮らしも、けっしておだやかではなかった。ムーミンはみんなのもの……ずかずかとトーベの世界に踏み入ろうとする人たちもいた。彼女が寄贈した2000点ほどのムーミン作品は、すべてが丁寧に台紙に張られている。こういう形で「ムーミンはみんなのもの」を何とかしようとしてくれていたのかもしれない。今でも島にずかずかと上陸してくる人たちの常套句なのだ、「ムーミンは皆のもの」って。トーベもトゥーリッキも、誰でもいつでもムーミンに会える場所を改めて作ってくれた、それがムーミン谷博物館なんだと思う。

じっくりとムーミン作品を味わったあとは、庭に生える雑草を眺めているだけでもムーミン谷に入り込んでいく気がする。トーベゆかりの地はいろいろあるけれど、でもムーミン谷はゆかりの地にしかない訳じゃないし、ゆかりの地だからある訳でもない。

まだまだ続く日本でのムーミン展。展示される作品はトーベが、そしてトゥーリッキが「ムーミンが大好きな人たちのため」、いつでも会えるようにと丁寧に残してくれたもの。是非この機会に見てください。いつかはムーミン谷博物館にも足を運んでみてください。

森下圭子

 

夏休みはもちろん、新学期にあわせてさらに人気が高まっているのがこれ。

食後に一粒。ムーミンのキシリトールガム。地下鉄ホームの広告、商品は次々かわるのにムーミンが絶えず登場している。