(66)かもめたちの好きな島

いつも散歩している海辺からは海の中に頭をだした大きな岩がよく見える。そこへ一瞬目を疑ったほど、次から次へとかもめがやってきていた。今年は産卵の時期が早いだの、なにやら例年とは少し違った鳥にまつわる現象が、あちこちでみられるらしい。確かに近所の岩を白岩かと見紛うほどのかもめの数を私は見たことがなかった。どうしちゃったのだろう。

そういえばトーベ・ヤンソンが夏を過ごした島々の近くにも、かもめたちが好んで卵を産む島があった。そこは木々どころか草すらないようなつるんとした岩で、すべすべの岩肌には小さな窪みがあちこちにあった。海のど真ん中、草木がほとんどないようなところに並ぶ島で、やっとのことで集められたわずかの草ででも、窪みを使えばそれらしく巣らしい感じがでるからだろうか......小さな窪みには、よく鳥たちのたまごが入っていた。トーベが夏を過ごした島々で一番有名なクルーブハルでも、毎年決まった窪みにかもめの卵があった。トーベがいなくなってもう何年にもなるあの島で、今でも変わらず卵を見ると何とも不思議な気分になる。あの頃はトーベたちが網をしかけて魚をとるたびに、そのはらわたをもらってたんだろうな、と想像がつく。魚をとったとしても食べない部位はかもめが取りやすいところに置いておく。それはフィンランドの人たちが当たり前のようにしていることなのだ。

あちこちでひな鳥をみかける頃。人々がこぞって島にでかけるには、もう少し待ったほうたいい時期だ。親鳥たちは敏感だし、ひな鳥たちは好奇心をむき出しにしながらも毎日毎日いろんな練習をしなくちゃならない。そっとしておくべき時期だけれど、それでも人は静かにそのあたりをわきまえながら、待ちに待った島での、夏の暮らしを始めようとする。すでに身近なところでも夏の島暮らしが始まった人たちがいる。夏と呼ぶにはまだ肌寒い毎日ではあるけれど、見上げた空にかもめが何羽も飛び交っていく姿を見ると、ああ夏がやってきた、としみじみ思うのだ。いてもたってもいられずに、夏休みのような島暮らしを一日も早く始めたくてそわそわしている人たちがあちこちにいる。

森下圭子

5月にもなると気温がぐんぐんあがる。20℃を超える日を今日は明日こそと待ちわびる日々。

ここ数年じわじわ人気が広がっているカップケーキ。ここにもムーミン。夏のはじまりはルバーブやいちごを使ったカップケーキでお祝いしたり。