(46)ヤンソン一家のきのこ狩り

ヘルシンキという街は首都でありながら自然が身近なところにある。どこに住んでいても歩いて20分以内に緑の豊富な森や公園があるように都市計画されているのだそうだ。先日知人に誘われて行ったのは、地下鉄の駅から歩けるようなところ。なのに、そこが首都だということも、つい20分ほど前には地下鉄に乗っていたことも信じられないような場所だった。

背の高い葦の野をくぐり抜けると向こうに森が見える。そこには海があり、小さな岩がちの島があちこちにある。小さな岩礁に佇みながらエプロンを風になびかせるムーミンママのように私も岩に立ち、向こうの森を眺め、そして森に想いを馳せたりする。草木が生い茂る島はむかし庭師が暮らしていたようで、古くて大きな木がいい按配で並び、ともすれば海の中でむき出しになりそうな島暮らしなのに、木々や草花に守られて、海をわたる人たちからも身を潜めるように家もサウナもひっそりと建っていた。

すっかりムーミン気分で海辺から森のほうに歩きはじめた。たくさんの真っ赤なローズヒップをつけたバラの木が続き、これはジャムにしたいなあなんて思いながらバラの木をじっくり眺めていたら、地面にきのこ発見。ニョキニョキと、よくよく見ると群れるように山鳥茸系のぷっくりしたおいしそうな茸がいっぱい。この日は案内してくれた方が急いでいたので、ただただ眺めるだけで終わってしまった。ああ残念。

ところで茸をみるといつもヤンソン一家のエピソードを思い出す。トーベのすぐ下の弟ペル・ウーロフが話してくれたきのこ狩りのお話。秋になると家族みんなできのこを摘みにいっていたのだそうだ。ママはきのこの場所をいくつも知っていたけれど、パパは新しい場所を発見したがった。きのこ探しの冒険はパパが先頭になってよく行われていたのだとか。そして新しいきのこの場所を発見するのは、いつもパパだった。というか、パパじゃなければならなかった。子供たちのほうがパパより先にきのこを見つけることはそれほど珍しいことではなかったけれど、子供たちが「見つけた!」だなんて絶対に言っちゃいけなかったのだ。パパが発見したことにしてあげる、それがヤンソン一家のきのこ狩りだった。直接的にモデルだとは言われていないけれど、でもやっぱりこの感じ、ムーミンパパを思い出してしまう。

きのこの群を見つけて数日。きっともう誰かが見つけてしまっているだろうな。ヘルシンキというところは、それくらい競争率が高く、それくらい人々は森のいたるところに出没しているのです。

森下圭子

 

トーベ・ヤンソンがムーミングッズに願ったのは、手にする人がひと工夫こらせるものだったという。クッキー作りセットだけど、これならいっぱい工夫しながら楽しめそう。

珍しい絵柄のミィ。