(55)夏至祭の空模様
夏至祭の前の日、この日の夕方から夏至のお祭りがはじまる。多くの人たちは遅くともお昼くらいには仕事を終えて、そそくさと街を離れる。一年でもっとも日照時間の長い一日は大自然に囲まれた中で楽しみたいのだ。首都ヘルシンキはがらんとしている。街に残っている地元の人はごくわずかで、旅行者ばかりが目立つ。
今年はちょうどこの夏至祭前日にムーミンツアーがあり、『ムーミンパパ海へいく』の舞台になったといわれるソーダーシャール島へ行くことになった。ところが前日にまさかの嵐。屋根が飛ばないよう注意を促しあうほどだ。「でもこれが夏至祭だよね。夏至祭といえば雨っていうか。フィンランドっていっつもこうでしょ。」……そうなのだ、いつだって素敵なことがありそうな日のお天気が優れないのだ。長い冬が終わってやっと外でピクニックという春の到来を祝うメーデーも雨がち。そして夏至祭といえば、大雨だったりひどい雷雨になったり、挙句の果てに嵐だ。ムーミンの物語には嵐がつきものだけれど、だからといってせっかくのツアーで嵐はつらい。
夏至祭前日の朝はやく。ヘルシンキは青空がひろがっていた。でも晩のひどい嵐の余韻は海に残っていて、まだいつもの航路には2mほどの波が残っているという。海はすぐには静かになってくれない。でもお昼が近づくにつれ、街のお天気はぐずぐすし始めてきたけれど、海はずいぶんと落ち着いてきたようだった。さあ出発だ。
バタバタしながら一生懸命に潜ったり泳ぐ練習をしている赤ちゃん鴨たちの群れ、ポケットに入れた石ころたちがカチカチあたるような声で鳴く小さな鳥、夏至のときに咲くという白いバラ。島にたどり着いた頃には青空が広がり、夏の強い日差しが燦燦と島の岩に降り注いでいた。人だけじゃない。小さな生き物たちも草花も、みんなで夏至祭をお祝いしている……そんな島の光景だった。
森下圭子
ムーミンパパの灯台のモデルといわれるソーダーシャールの灯台。『ムーミンパパ海へ行く』の挿絵やストーリーが、この島のあちこちで重なる。
灯台の上から眺める島のようす。小さな島が周囲に点在している。