(53)かもめの歌声と鳥の島
春は急に深まり、空からは少しずつ闇の濃さがやわらいできている。もうすぐ白夜だ。でも夜は夜。夜になると空が明るくても、なんとなく空気が落ち着いている。そんな空気や風が夜の気配を街にとどめる。ここへ我よ我よと大声で鳴いてるのがかもめだ。冬のあいだ、とんと見かけなかったかもめ達が、いたるところで大騒ぎを始めるのだ。ああ、これで冬が終わったノノそうしみじみ思う。
かもめは日本でいうところのカラスのような存在。街での、とくに市場での評判はすこぶる悪い。何でも食べる、時には手にしていたピロシキまで奪いにに来る。アイスが落ちるのを虎視眈々と、それも落としそうな人を選んで、かもめ達があちこちから睨んでいたり。とにかく賢い。ちょっとした嫌われ者、人々に怖がられている存在でもある。だからか他の鳥のように人になついてはこない。そういえば、クルーヴ・ハルの周辺の島にも多くのかもめがいた。多くが岩の窪みに次から次へと卵を産む。巣立つまでは人は立ち入らないようにする。かもめのことを思っているのと、そして自分たちの身を守るためだ。
ギャーギャーと鳴くからすが頭の上を飛んでいるのを見るたびに、かもめに嬉しそうに餌をやってるトーべ・ヤンソンの写真を思い出す。珍しく人なつこいかもめ、ということだけじゃない。フィンランドの人であそこまで嬉しそうにかもめと一緒にいる感じがなんともたまらない。
そういえばムーミンパパの灯台の島といわれているソーダーシャールは自然保護区に指定されている。とくに鳥のために指定されているとか。いろんな種類の鳥が卵を産み、孵化させ、雛はやがて泳いだり飛んだりの練習を繰り返し、そして巣立つ。あそこでは保護を理由に立ち入り禁止にしたりはしない。ここから先進入禁止のロープをひいたりもしない。あくまでも人々の判断にまかせる。それぞれの鳥といい距離感を考えながらひとりひとりが島を歩くのだ。ムーミンやトーベ・ヤンソンの世界はいまでも、こうやってひっそり息づいている。
森下圭子
サーモマグにもなるボトル。保温もきくし持ち運びにも便利。飲むときに口の部分を代えるだけ。かつては子供向けおもちゃが多かったマルティネックスの商品も、最近は大人向け商品我が目立っている。
長いマッチ。暖炉やサウナや焚き火など、フィンランドの森暮らしに欠かせないアイテム。森で森柄のマッチ箱。箱からムーミンがするりと抜け出したりして。