(51)春は太陽に乗ってやってくる

ヘルシンキの歩道はつるっつるだ。足元ばかり見ていて、せっかくのムーミン谷の冬のような景色を楽しめていない。歩きにくいなら走ってしまえ…ふとひらめいてスロージョギングをすることにした。−15℃のスロージョギング。襟元の髪は樹氷のようになり、腰につけた水もじゃりじゃりしてきたりする。面白い実験のような体験をしながら、何が嬉しいって足元を気にせずにいられることだ。こんなにじっくり森をみながら、心地よいテンポできょろきょろと森の様子を眺めていられるなんて、なんて楽しいことだろう。

これくらい寒いキリリとした日はだいたい天気がいい。雪原と化した海の上を走り森へ入る。小さな動物の足跡があちこちに見られるだけの雪ばかりの地面。その雪の白に差し込む木々の影の闇。顔をあげて木々を見れば、そこにあるのは冬眠しているような静かな木々、眠った木々は黒々としている。そんな木々の幹や枝にまとわりつく雪の明るさ。何というコントラストだろう。他の季節では見たことのない光と闇、白と黒の鮮やかなコントラスト。そしてそんなコントラストを作るのは、太陽だ。ああ眩しい。春はもうすぐ、近くまできているんだな、などと思う。ふと鼻をくすぐる太陽のぬくもりを感じるときがある。春だ。春って太陽に乗ってやってくるんだな。

冬の森、森のコントラストを楽しんで家に戻り、ふと『ムーミン谷の冬』を手にした。絵を確認したかったのだ。とても個人的な印象なのだけれど、長らく『ムーミン谷の冬』の挿し絵はシリーズの他の作品と比べて、白と黒がとても際立っていると思っていたのだ。雪の深い森、冬にみられる光と影、白と黒のコントラストが丁寧に描かれているのだ。

そんな発見に心を躍らせていたら、ムーミンショップの店長から電話があった。ソリ滑りのお誘いだ。私にと手渡されたのは、UFOと呼ばれるお盆型のソリ。ミィみたい!と思ったけれど実はこれ、あぐらをかいて座ると、ぐるぐる回りながら滑り下りていく代物だ。挿し絵の新しい発見に感動してるけど、結局は冬のヘムレンさんみたいな、ゴキゲンでかっとばす人の印象だけを周囲に植え付けて冬が終わっていきそうだ。

森下圭子  

じわじわとデザイン業界に浸透しているスポンジワイプ。ついにムーミンでも登場。

今年のイースターにはこんな新商品も。エッグチョコだらけのこの時期、卵形の容器には違ったものを詰めて。お米を入れて楽器みたいにしても楽しそう。