(194)ニョロニョロの起源【フィンランドムーミン便り】
夜が長い時期に大活躍のリフレクター。ニョロニョロはここでも人気
ニョロニョロの発想はどこから来たか。ある日本の方が「きのこから発想を得ているんじゃないかと思うんです」と話されるのを通訳したことがある。その時に「フィンランドでもそう考える人は意外といて」と、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンの姪が話してくださった。根拠は同じで「雷がなるとニョキニョキ生えるから」。ニョロニョロの起源はきのこ説が一番多いのかなと思っていたところ、先日、トーベが愛した群島ペッリンゲを一緒に旅をした漫画家が、その海の水面に立つ光の感じがニョロニョロそのものだと話してくれた。すごい発見だよ!と教えてくれるのだけれど、私はタイミングが悪いのか、視覚的な感覚がおっとりしすぎているのか、水面にニョロニョロの姿を見つけることはとても難しかった。
ところが島めぐりをした日のこと。ペッリンゲでは何千羽ものカワウの群れが幾度となく目の間に現れた。彼らは時に空を飛び、またはあちこちの島に群れて並んだ。そんな中、木が一本もなければ草すら生えていなさそうな小さな岩礁に、頭を上げて立ち並ぶ黒いカワウがいた。眺めていると影絵を見ているようで、そしてある思いが浮かんだ。旅をするニョロニョロ、島に集まるニョロニョロ。そんな風に見えるのだ。
別の漫画家がこんな話をしてくれたこともある。トーベの描く自然の絵を見ていると、トーベがどれだけそれらを大好きなのかが分かると。木の一本に描かれる細かく描かれた線の数々の緻密さや繊細さ、海の水面の表情。ヘルシンキで『ムーミン谷の十一月』を書こうとしたのに全然先に進めず、ペッリンゲの十一月の森を知らないからと、地元の友人宅の一室を間借りしたトーベ。そして毎日森を歩きながら、物語を書き上げた。
フィンランドに来て間もない頃の私は、トーベの絵を見つけるようにフィンランドの景色を見ていた。ムーミンに出てくるリスみたいだとかりんごの形がムーミンの挿絵のようだとか。気がつけば、いつの間にか木の一本、太陽が海の水面を照らした時の光の様子や影をじっくりと眺めることに夢中になっている。自然と関わることをムーミンやトーベから学ばせてもらった気がする。私自身は決して細やかなところまで気がつくほどの力は持ち合わせてはいないけれど、それでも自然の中で好きなものを見つけ、例えば岩をじっと眺めていくうちに、岩と交流しているような心地で時間を過ごすことを覚えた。
ニョロニョロの起源の真実はわからないけれど、その人だから気づくような視点で考察した人たちの話は、一冊の本になりそうなくらいに色々あるのだろう。多くの人たちの考察を聞いてみたいと思う。
トーベが大好きだった洞穴は、ムーミンの物語でスニフの洞窟として登場した
森下圭子