ムーミントロールは何歳? トーベ・ヤンソンの手帳から【本国サイトのブログから】
ムーミントロールはどんな声をしているのか、リトルミイはなぜ大きくならないのか、不思議に思ったことはありませんか? ムーミンに関するこうした疑問への答えは、ムーミン谷のキャラクターについて書かれた、トーベ・ヤンソンの手帳に記されています。このメモは、キャラクターの背景や、名前の由来、そして行動原理を知る上でとても興味深いものです。今回は、いくつか抜粋を紹介しましょう。
※メモの全文は、『小さなトロールと大きな大洪水』の80周年アニバーサリーエディション(英語版・未邦訳)に掲載されています。
ムーミントロールは何歳?
シンプルな黒い手帳には、ムーミンの物語に登場する主要キャラクターたちについての手書きのメモがたくさん記されています。メモの中にはかなり具体的なものもありますが、残念ながらムーミントロールの正確な年齢の答えは謎のままです。これぞまさにトーベが意図したことで、彼女は小説やコミックスの中で、ムーミントロールの年齢を明確には定義しませんでした。こんな風に書いています。
「ムーミントロールは、夏は長い季節であり、水はあたたかいものだと思い、新しいことがいつも起きていると感じるような、そんな年齢です」
「彼は小さいもの、怯えているもの、壊れたものすべてに同情します」
「ムーミントロールは、ときどき自信がなくなるものの、元気な男の子の声をしています」
「スニフの性格は、たぶんだんだん良くなっていくでしょう」
慎重で、でも興奮しやすいスニフについては、もう少し具体的に年齢について書いています。
「スニフは10代くらいでしょうね」
キャラクター評については率直です。「残念ですが、スニフの性格には特に魅力的なところはないですね、でもたぶん、だんだん良くなっていくでしょう」
トーベは、スニフの声について、「理由もないのにクスクス笑ったり、牛みたいに鳴いたりして、感謝や軽蔑の気持ちを表そうとします。怖がっているときは、声が甲高くなることも」と描写しています。
リトルミイの遠慮のない笑い声
トーベは、荒っぽく、思ったことをズバリと指摘するリトルミイが、なぜあんなに小さいのかを説明し、大きさをはっきりと示しています。「…… 3 か月で成長が止まってしまって、裁縫かごに入れるくらいの大きさのままだったのです」
おそらく、ムーミンの劇やテレビ番組を準備していた監督たちが、キャラクターについて理解できるように、このメモを書いたのだろうと思われます。俳優たちが演じるのを助けるため、キャラクターの声をどのようにイメージしているかを説明しています。
リトルミイの声は、脅すような調子と単に無邪気に面白がっている様子の両方が含まれていて、「突然遠慮なく笑う、小さな声」だと記しています。
フィリフヨンカ(すくなくとも、より用心深いタイプのフィリフヨンカ)の声は、「印象的で、“注意深く調整されていて”、かなり高い、でも話の途中で言いかけたことを見失ってしまったり、致命的な失言をしてしまったりする傾向がある」。
トゥーティッキ ――ものごとをまとめる小さな風
トーベはメモの中で、キャラクターの名前の由来や意味についても説明しています。『ムーミン谷の冬』でムーミントロールに冬について教える、穏やかで賢いキャラクター、トゥーティッキの名前は、フィンランド語の「トゥーリ」、または「トゥーリッキ」からインスピレーションを得たと書いています。どちらもトーベの母国フィンランドでは一般的な女性の名前です。トゥーリッキは、トーベのパートナーで、グラフィックアーティストのトゥーリッキ・ピエティラの名前です。
トゥーティッキという名前には、キャラクターの性格に反映された具体的な意味があると説明しています。「フィンランドの名前のトゥーリッキ(Tuulikki)または、トゥーリ(Tuuli)から。小さな風。片付け、変化をもたらし、家の風通しを良くする。ものごとを明快にして、シンプルにする人」
ヨクサルのように、あまり言及されていないキャラクターもいます。ヨクサルに関するメモは、一つだけです。「彼の名前は、何かについて冗談を言うことを暗示しています。つまり、『ヨクサ(joksa)』 ※原語のスウェーデン語はヨクサレン(Joxaren)」
ニョロニョロ ――ひどい暮らしをしていると非難される者
トーベのメモによると、ニョロニョロは眠ったり食べたりする必要はなく、目は周囲の色を帯びることがわかります。ニョロニョロという名前は、計画もなくうろつくことを意味するスウェーデン語の「フナッタ(fnatta)」に由来しています。
トーベは、ニョロニョロを「地平線にたどり着くことだけを目的とする、さまよう生きものの集団」と表現しています。「ニョロニョロたちはひどい暮らしをしていると非難されていますが、それは不当なことです。なぜなら、彼らは誰にも、何にも関心を持つことができないからです」
これらは、トーベがムーミンについて記したメモの一部です。トーベの手帳から引用されたメモの全文は、『小さなトロールと大きな洪水』の80周年アニバーサリーエディションで、初めて公開されました。
このキャラクター紹介に加えて、アニバーサリーエディションには、作家でムーミン愛好家のフランク・コトレル=ボイスによる新しい序文と、切り取って自分だけのムーミンやしきを作れる、楽しいカラーポスターがついています。ポスターのイラストは、1950年代にトーベがデザインしたものです。
ムーミン小説出版80周年
2025 年は、ムーミン小説の出版80周年です。80 周年のテーマは、ムーミンやしきとそれが象徴するもの――帰る場所や居場所の大切さです。キャッチコピーは、“The door is always open(ザ ドア イズ オールウェイズ オープン)” 。ドアに鍵をかけないムーミンやしきは、どんな生きものでも受け入れるのです。
トーベ・ヤンソンは第二次世界大戦中、暗い時代に自分の心を慰めるため、最初のムーミンの物語『小さなトロールと大きな洪水』を書き、寛容と冒険に基づく世界を作り上げました。これは苦難に満ちた時代と、離ればなれになった家族についての物語です。また、希望についての物語でもあり、帰属意識と安心できる場所、つまり家と呼べる場所を持つことの大切さについての物語でもあります。
翻訳/内山さつき