(226)群島の暮らしを届けたい【フィンランドムーミン便り】


5月の群島ペッリンゲ
 

イギリスのcuppがムーミンをテーマにしたカフェをブリストルに続き、ヘルシンキでもオープンする。5月22日(金)、人気はバブルティーだけれど、一般的なカフェのドリンク類に加えてムーミンの顔型のワッフルもある。6月には3店舗目がノルウェーのベルゲンに登場するとか。そんなカフェの詳細は6月に改めてここで紹介したいと思います。

今年の5月は暖かい日が続き、公園や森の花も一斉に咲き出した。ほんの3か月前には海全体がびくともしない厚い氷に覆われていた群島に行くと、森の地面はイチリンソウやニリンソウが白く花開き、ブルーベリーの薄赤の花が木漏れ日を浴びて輝いていた。

いつの間にか大小の島々が連なる群島地域ペッリンゲは私の大切な場所になっていて、島の人たちの生き方や、彼らが話してくれる群島で生きることや人付き合いのことにわくわくしている。トーベ・ヤンソンが夏を過ごしたペッリンゲだ。人々の話の中にも時にトーベ・ヤンソンの思い出あり、彼女の小説やムーミンに登場する〇〇はきっと誰々さんだとか、あのシーンはこの場所だよねなんてことが出てきた。

森も海も島々も、そしてそこに生きる人たちも、ムーミンの物語が誕生して80年経っても変わっていない気がした。きっとあと20年しても変わらないと思うと、100年変わらない価値観は普遍的だし、信じていいような気がする。そう思うと、私はその景色や人々との関りをできるだけたくさんの人たちと共有できたらいいなと思う。

実は10年以上前からそんなことを考えて、オフィシャルムーミンツアーでペッリンゲを訪れられたらとプログラムを作るようになった。雑誌の取材も「クルーヴハル島」とリクエストがあっても、範囲を広げてペッリンゲを勧めた。トーベ・ヤンソンが何をしたかもいいけれど、トーベ・ヤンソンが必ず戻ってきた島の魅力が何なのかを体験してもらえたら。そんなプログラムに群島の人たちが一人またひとりと加わってくれ、どんなことができるか相談し合った。最初に乗ってくれた人は、私の大切な友人になった。

そんな彼女が「両親が保管してたトーベの記事の切り抜きがでてきた」とファイルを見せてくれた。彼女の父はペッリンゲの歴史や文化を後世に伝えるために尽力していた人で、ムーミンを研究されていた高橋静男さんと渡部翠さんご夫妻のペッリンゲ案内をしたことがあると聞いたことがあった。ファイルの中を二人で見ていたら、中から高橋静男さんから友人の父宛ての手紙が出てきた。1994年12月、友人の父が亡くなる少し前の日付がそこには書かれていた。

手紙の中で高橋静男さんはペッリンゲに日本の人たちのグループを連れてきたいと言い、具体的にいくらくらいになるかの見積もりをだしながら友人の父と話し合っていた。その金額はちょうど今と同じくらいの航空運賃で、旅行代金の見積もりまで同じくらいだった。本気で考えている様子が伝わってきて、この森と群島と人々の暮らしや文化を共有したいと願っている様子が伝わってきた。彼らが目指していたものを、私たちは図らずも実現させていた。声に出して手紙を読んでいた私はまず泣いて声を詰まらせ、そして彼らが話し合う「懸念材料」までがそっくりで思わず笑ってしまった。この旅費で、さすがに宿泊は納屋でとか、森の茂みで用をすませてとか日本の人には言えないですといった感じだった。

20代で突然父を亡くした友人は、このファイルの存在は知っていたものの手紙は初めて読んだのだと言った。ムーミンに、そしてトーベ・ヤンソンの人生に欠かせなかった群島の暮らしを伝えたいと願った人たちが目指したことを、次の世代の私たちが引き継ぎ実現していることがなんだか嬉しかった。そして私たちが現在組んでいるプログラムには、実は私たちの次の世代の人たちも加わり始めてくれている。

 


5月22日(金)にオープンするヘルシンキのcupp x MOOMINカフェ

森下圭子