メルマガ内連載より『もうひとつのムーミン谷』(高橋絵里香)

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今回ムーミンニュースで特別にご紹介するのは、メールマガジンで連載している『もうひとつのムーミン谷 ~フィンランド暮らしの日々から~』です。著者はフィンランド在住の高橋絵里香さん。「ムーミンキャラクター図鑑」(講談社)の翻訳や、宝島社や白泉社の雑誌にも寄稿されているライターさんです。

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もうひとつのムーミン谷

~フィンランド暮らしの日々から~

第22回「フィンランドの年越しは、光の噴水」

大晦日になると、フィンランドのスーパーマーケットの一角には、花火売り場が設けられます。手持ち花火も少しありますが、並ぶのはほとんどが大きな打ち上げ花火。コミックスに出てくる、火遊びが好きなムーミンのご先祖さまたちが、喜んで火をつける様子が思わず浮かんでしまいます。

フィンランドの年越しに、打ち上げ花火は欠かせません。大晦日の夜だけは、成人なら誰もが許可なしで花火を打ち上げることができます。北フィンランドでは、花火はもっぱら冬の風物詩。夏は白夜で空が明るいので、花火が見えないのです。

「あ! 光った!」ムーミンママ
コミックスNo.11『魔法のカエルとおとぎの国(筑摩書房)』より

ムーミンの物語にも、たびたび花火が登場しています。コミックス「おさびし島のご先祖さま」では、雲の上まで吹っ飛んでしまうようなロケット花火をご先祖さまたちが打ち上げていますし、「ムーミンパパとひみつ団(筑摩書房)」ではムーミンパパが大冒険の末に手に入れた秘密の書類が、花火の製造法だったというエピソードも。童話「たのしいムーミン一家(講談社)」でも、お庭のパーティーで打ち上げ花火があがっています。花火はムーミン谷でも、大きな展開や節目になると、必要になるアイテムだと言えるでしょう。

フィンランドに移って、初めて見た大晦日の花火は、今でも忘れられません。高い丘の上に登ってみると、ロヴァニエミの町中から、無数の花火が打ち上げられているのが見えました。家庭で打ち上げられる花火は、一つひとつはそれほど大きくはないのですが、その数があまりにも多いので、町全体が光の噴水をわき起こしているかのような美しさでした。

フィンランドの年越しには、花火の他にもユニークな伝統があります。馬のくつわ型の錫を暖炉の火で溶かして、それを水の入ったバケツの中に落とし、その過程で生まれた錫の形で新年を占います。おみくじとは違って、はっきりとどんな年になるとそれでわかるのではなく、錫の形を眺めながら自分で解釈していくのがまたおもしろいです。舟の形に見えるから今年は旅行に出かけるかもしれない、など想像力をはたらかせながら、新年について自分なりの解釈をしていきます。

クリスマスに帰省して、そのまま故郷の実家で新年を迎える人もいれば、自分の住む町に戻って家族や恋人や友人たちと一緒に過ごす人もいます。クリスマスよりも賑やかに、仲間とわいわい過ごすフィンランドの年越しは、一年で最も楽しい日の一つです。

ロヴァニエミの花火

◆高橋絵里香

1984年生まれ。北海道の中学を卒業後、単身でフィンランドに移り、2000年8月にロヴァニエミの高校に入学。4年間の留学を終え、2004年5月に同校を卒業。

現在はオウル大学にて、生物学を学んでいる。

著書には「青い光が見えたから」(講談社)、翻訳には「ムーミンキャラクター図鑑」(講談社)

公式ブログ「フィンランドに生きて」