
(143)棚からモランがいなくなった日
この夏フィンランドではモランが熱い。フィンランドが久しぶりにアイスホッケーで世界一になったのがきっかけだ。およそ10年ぶりの世界一とあって、SNSでも町でも、おおはしゃぎする人たちでごった返した。このチームをまとめてきたキャプテンのニックネームが「モラン」。そんな訳でモランまで大注目されることになったのだ。
もともとモランはフィンランドの男性には人気のキャラクターで、たとえば大人の男性が自分用に買っていくぬいぐるみもモランが多かった。
そして今になって「え、そうだったの?」と語られたのが「モランは女性だって知っていましたか?」ということだ。アイスホッケーのキャプテンは男性だし、自分とどこか重ね合わせて男性がモランのグッズを買っていく。モランは女性だって知っていましたか?というニュースがあちこちの新聞に登場し、多くの人を驚かせた。とはいえ、「まあどっちでもいいよね」というスタンスのようだ。
フィンランドがアイスホッケーの世界一になった直後、全国のあちこちの店でアラビアのモランマグが売切れた。笑ってしまうほど、見事にモランのところだけが空っぽになる。モランのTシャツはあちこちの店の店頭に並び、男性サイズは次々と売り切れた。
この夏、ムーミン美術館では企画展でこれまでのアニメーションと最新のムーミンアニメを取り上げている。なかなか紹介されることのなかった通称「昭和ムーミン」、1960年代のムーミンアニメも紹介されており、1話見られるようになっている。
この企画展に合わせて美術館アトリエ部分で行われる自由に参加できるワークショップでは、自分のアニメーションを作る。自分たちでキャラクターを作って、それを動かしてアニメーションを作る。作ったキャラクターは他の人たちも使えるように壁に貼っておくのだけれど、ここにもモランが多いこと。
いつもみんなに避けられてぽつんと一人ぼっちのモランが、みんなに愛され、英雄にまでなっている。大勢の人たちでひとつのキャラクターを育てているような感じ。ひとりぼっちでいさせ続けるより、作者のトーベ・ヤンソンは、みんながキャラクターを育てている感じを喜んでいるのではないかな、なんて思っている。
森下圭子