(24)フィンランドデザインとムーミン

 
ムーミングッズは家のどこかに必ずあるほど、今ではフィンランドの家庭に定着している。それよりももっと、長年にわたって人々の生活風景になじんでいるのがヴオッコのデザインだ。ヴオッコとはフィンランドの女性デザイナー、ブオッコ・ヌルメスニエミのこと。初期のマリメッコや独立してのヴオッコ・ブランドで活躍し、おばあちゃまになった今も次々と新作を発表している。

だいぶ前に彼女のドキュメント番組をテレビでみて、その歩き方や佇まいが映画『かもめ食堂』にも出演されている、もたいまさこさんにそっくりで、とても印象に残っていた。すごく素敵な人だ。おまけに私は彼女のデザインが好きで、台所にもクローゼットにもヴオッコのものがある。個人的に特別な存在だったそのヴオッコ本人にお目にかかることがあるなんて想像したこともなかったけれど、フィンランドでよくある「ひょんなことがきっかけで」というやつで、気づいたら目の前にヴオッコさんが微笑んでらした。

日常の話やらなんだかんだいろんな話が続き、いつのまにかムーミンやトーベ・ヤンソンの話をしていた。ヴオッコとトーベという組み合わせ、私には盆と正月、アイスとケーキが一緒にやってきたみたいだ。「フィンランドでデザイン賞を設立しようというときに、私の脳裏に最初に浮かんだ人がトーベ・ヤンソンだったのよ」と、そんなことをヴオッコは語りだした。

フィンランドでデザイン賞を設けようとなったその選考の会議にヴオッコは出席していた。デザインとは何ぞや、これからのフィンランドのデザイン観にも影響するだろうその席で、彼女の脳裏にはトーベ・ヤンソンが浮かんだのだという。ムーミンだけでなく、彼女の絵画、テキスト、トーベ・ヤンソンの世界や彼女の手がけるすべてが、デザインそのものだと思ったのだそうだ。結果としてトーベ・ヤンソンがデザイン賞を受賞することはなかったし、デザイン賞史の中でこんなエピソードが登場することもない。でもトーベ・ヤンソンとデザイン、なんだかすごくいい感じ。

そういえば、ミィの服もママのエプロンもおしゃまさんのスタイルもヴオッコのデザインに通じるものがあるような。ムーミンに登場する家具や雑貨も素敵だし、クリスマス商戦が始まった今、今年もムーミンショップにママのエプロンやらムーミンの挿し絵に登場する小物を求めているお客さんが増えているんだろうな。

こういう時は何か縁が続くようで、昨日ムーミン関係者が把握していないトーベの絵の存在を、修復を専門とする建築家が何気に話してくれた。古い建築物を堪能していたときにふと目に入ったのだそうだ。さっそく見にいかねば。

 

森下圭子

意外な人からムーミンの話がでてくるように、何気なく眺めていた本からいきなりムーミンが登場する。ファッツェル社の100周年記念本とフィンランドのデザイン本にも…。
デザイン本にはトーベのファブリックや壁紙、そしてクリスマス用の包装紙が。ファッツェル本では積極的に若い芸術家をサポートしていた例としてトーベに依頼したクリスマス用ポスターが(これが数年前にマグとして再登場)。