(17)船のようなアトリエハウス その1
建築博物館でのピエティラ展にあわせて企画されたムーミン作者、トーベ・ヤンソンのアトリエ見学。アトリエは一般公開されていないので、大勢の人たちとこんな風に見学させてもらえる機会なんて滅多にない。なのではりきって行ってきた。
フィンランドの人たちは、日本人並みに「はい、質問ある人」ときかれて、質問できないタチである。でも質問がないかと言えば、心に秘めたたわいもない質問なんてのがある。後でこっそり聞きに行くところまで似ている。失敬して耳をそばだてていたら、フィンランドの人たちのたわいもない質問ときたら…。
このアトリエは住居も兼ねているのだけれど、ドアで間仕切りされていない。玄関ホールを使った打ち合わせ用の静かなスペースがあれば、ロフトタイプの寝室部分も隠れ家のようにある。玄関ホールの向こう、6メートルほどある高い天井の大きな空間が仕事場、つまりアトリエだ。ここにはバルコニーがあって、上からアトリエを見渡せる。大きな窓が並ぶ角部屋、でも絵を描くのに南からの直射日光はあまりよくないし冬は寒いので、南の窓を一部完全に覆うかたちで大きな本棚がしつらえてある。
膨大な量の書籍、バラライカやら石やら、思わずクスっと笑わされてしまう置物の数々。彫刻家の父の作品、どれもこれもとても楽しいのだけれど、フィンランド人がこっそり質問していたのは「テレビはないのですか」だった。みんなテレビを探しながら見学していたのか。という私も、実は最初にアトリエに入ったときに「あれ、キッチンは?」だったので、私がテレビのあるなしの質問をとやかく言うことはできないな。ちなみにここには、キッチンもテレビもない。
心地よい空間だけれど、実質的なことを考えると実は生活するには不便そうな部分も多い。そういえばバルコニーにあがるための階段やロフトへの螺旋階段(なんと幅45センチ)もやっかいだ。バルコニーに続く階段はとても急で、パーティをしててほろ酔い気分の人が増えてくると危険な階段でもある。そんな階段のことをトーベの姪、ソフィアが「船の階段みたいよね」と言っていた。確かに、確かにそうだ。そしてバルコニーから寝室に続く小さな入り口のステップのところもまた、脇にとりつけられた取っ手の具合といい、船底から船長さんのところに顔を出すみたいだ。
アトリエの窓から外を眺めると、遠い向こうのほうに海がみえる。(来月につづく)
森下圭子
最近の売れ筋商品。CDを聞きながら色をぬったり指示にしたがって作業するセット。こういうお勉強ものは季節を問わず人気。 |
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