(138)氷の洞窟と氷のムーミン
フィンランドの小さな町で、氷と雪でできたムーミンの世界が誕生した。それは地下35メートルに作られた『氷の洞窟』の中にある。
12月26日のオープン以来、氷の洞窟は大賑わい。人口が一万人に満たない町で、一か月を待たずして、来場者が1万人を超えた。人口を超える人数がやって来た理由のひとつは、この氷の洞窟がホテルの地下にあるから。スポーツ施設が充実したこのスパホテルには、もともと地下に一年中クロスカントリースキーができるようになっていた。この一部を老若男女がもっと楽しめるところをということで、『ムーミンの氷の彫刻展』を企画したのだという。
氷の洞窟で使われているのは天然氷と雪。なんでも前の年の冬のうちにラップランドから取り出しておくのだという。彫刻に使われる氷は大半が川の氷。静止した水が凍っていくよりも、流れのある川で凍っていく天然氷の方が気泡が少ないためだ。この天然氷に、モンゴルからやってくる世界有数の氷の彫刻家たちが次々と氷に命を吹き込んでいく。今回展示されているのは『ムーミン谷の冬』の世界。ひんやりとした洞窟の中で、本の挿絵が立体で並んでいる。
野外にいるときの氷と雪の世界とは違う。木々もなければ月もない、氷の洞窟は、それこそ氷と雪だけでできている世界だ。普段味わうことのない「ひんやり」した感じに、静謐という言葉が浮かぶ。風も匂いもない中で氷と雪に囲まれて歩くのは、なんと独特で非現実的だろう。氷のトゥーティッキを眺めながら、本の一節を思い出したり、ひとりぼっちの氷のモランに心の中で話しかけてみたり。非現実的な空間では、私はいつもより大胆で自由にムーミン谷の住人たちと言葉を交わしていたような気がする。
氷の洞窟には、ひと休みできるところや、氷でできた滑り台や雪で遊べる「わんぱく広場」もある。
氷の洞窟は8月25日まで毎日オープンの予定。外は公園や森に緑が茂り、そこここに花が咲く季節になっても、この地下には氷のムーミンたちが、雪と氷の世界が広がっているのだ。夏の暑さに耐えられなくなったら、氷の洞窟はいかがでしょうか。
追記:
当初の予定では『氷の洞窟』のオープンは8月25日までの予定でしたが、来場者数が予想以上に多いため、氷の彫刻が真夏まで維持できるか判断が難しくなってきたとのこと。そのため一時的に「確実なオープンは5月末までとし、6月以降についてはHPなどで5月の終わりに改めて発表します」とのことです。
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森下圭子