海からの贈り物
梅雨が明ければ一気に夏! 7月に入るとあちこちの海水浴場で海開きが行われ、夏気分が盛り上がってきますね!
さて、ムーミンたちも海が大好き。海にまつわるエピソードは原作小説のどの巻にも登場するほどです。また、浜辺に流れ着いたさまざまなものがきっかけとなって展開していくお話もあります。そのなかから今回は『たのしいムーミン一家』(講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集)のエピソードをピックアップしてみましょう。
あるとき、海岸へピクニックに出かけた一行は、一艘のボートが流れ着いているのを発見しました。オールといけすのついた、白と緑のりっぱな帆船です。早速、みんなで乗り込んで、島へと出発! 実はその島は毎年、夏至の頃、ニョロニョロたちが大集結する場所でした。
みんなは思い思いに島を探検。ヘムレンさんはめずらしい植物をいくつも採取したうえに、ニョロニョロの気圧計まで持ってきてしまいました(それは本当は持ってくるべきではなかったんですけどね。詳しく知りたい方は原作をどうぞ。そのときのお話の一部は新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』第6話「ニョロニョロの島」でも描かれています)。
スノークが発見したのは、なんと、金! ムーミンママだけは探索に参加せず、岩の陰に丸くなって、ぐっすりと昼寝をしていました。前夜の嵐で、浜にはいろいろなものが流れ着いていました。でも、スナフキンの心を動かすようなものはひとつもありません。スナフキンはポケットに手をつっこんで口笛を吹き、ぴょんと跳んでは、やってくる波をかわしながら、砂浜をぶらぶらしました。
スニフは、自分にぴったりのコルクでできた浮きベルト(腰に巻きつける救命道具)を見つけてご機嫌です。他にも、白樺の皮、麻のマット、欠けた船用ひしゃく、かかとの取れた古ぼけたブーツなどを拾いました。スニフにとってはどれも、宝物だったのです。ムーミントロールが水の中から引き上げたのは、大きなブイ(海面に浮かべる目印)。うらやましくなったスニフは交換を持ちかけます。スニフが拾ったガラス玉はよく見ると、とてもきれいな雪嵐の玉(スノードーム)でした。たちまち、手放すのが惜しくなってしまったスニフ。「心がまっぷたつに割れそう」なほど、悩んで、「雪嵐の玉は、ふたりのものにできないかな」と頼みます。親切なムーミントロールは、日曜と火曜は玉をスニフに貸すことに同意しました。ムーミンパパはたくさんの材木を集めました。それを持ち帰って、冒険号のための桟橋と水あび小屋を作ったのです。
何か特別なものはないかと探していたスノークのおじょうさんが見つけたのは、木でできた大きな女王さまの像。それは船のへさきにつける船首かざりでした。おじょうさんから木の女王さまをプレゼントされたムーミントロールは、ムーミン谷へと帰る船上でも、女王さまを見つめてうっとり。すると、おじょうさんの気分はだんだんと落ち込んで、体の色が灰色に(スノーク族は気分で体の色が変わるのです)。驚いたムーミントロールが隣に座って優しく話しかけると、おじょうさんはピンク色に戻りました。
(このムーミントロールとおじょうさんのやりとり、ふたりの性格がよく表れていて、とても微笑ましい場面なんです。ここでは細かいニュアンスまではご紹介できませんので、ぜひ本を読んでみてくださいね。この女王さまの存在が心に引っかかって、後におじょうさんがとんでもないことをしでかしてしまう場面も必読です!)
トーベ・ヤンソンは実際に、海からの漂着物を拾ったことがあったそうです。かつては、海が荒れて、積み荷が流されたり、船が沈没したりといったこともあったのでしょう。ムーミン・コミックスでも、ムーミンたちは熱帯植物の種やウィスキーなどを海から拾っています。もうひとつ、新版が発売されたばかりの『ムーミンパパの思い出』の終盤、若き日のムーミンパパは海辺で、何ものにも代えがたい素晴らしい贈り物と巡りあいました。それはなんとムーミンママ(当時はまだ、パパでもママでもありませんでしたが)! 嵐の夜、高波にもまれて溺れそうになっていた若い女のムーミン(のちのママ)をムーミン(のちのパパ)が助けたのです。それがふたりの出会いでした。
今年の夏は海に出かけたら、お宝が流れ着いていないか、ちょっと探してみてはいかがでしょう? 運命の相手が流されてくる、なんてことはそうそうないとは思いますが。
萩原まみ