(189)氷の彫刻とムーミン【フィンランドムーミン便り】


氷の洞窟で人気の撮影スポット

ヘルシンキから長距離バスで4時間半。人口が1万人弱の町にあるスパホテルは、もともとはスポーツに特化していたけれど、「ムーミン氷の洞窟」を始めてからは、小さな子のいる家族や、ふらっと遊びに来る人たちが増えたという。ホテルのエレベーターで地下へ降りていくと、そこは氷と雪で覆われた冬の世界。氷の彫刻でムーミンの物語の様々な場面を表現した作品が並ぶ。

「今年からは、ふんだんに雪も使うことにしてみたんです」と、スパホテルの方が教えてくれた。氷を切り出してくるラップランドの同じ場所から雪も運んできたという。これまで同様モンゴルとフィンランドの、お隣スウェーデン、さらにはドイツやマレーシアからやって来た腕利きたちが2週間かけて作品を制作。今回はムーミン谷がジャングルになってしまうエピソードも取り入れたからか、それとも雪という素材が増えたからか、表現の幅が一気に広がったような印象を受けた。

思えばムーミンというのは、シンプルな曲線で描かれていて、これを氷で表現するのは至難の技だ。今回はジャングルが登場することで、キリンやサル、南国の動物たちが加わり、つまり氷の彫刻家たちが作り慣れているものが加わったことで、空間が一気に華やぐというか賑やかになった気がした。天然氷に色の照明をあてることで、氷に表情を出すだけでなく、氷の表面にところどころ雪を加えて表情を豊かにする。氷の彫刻を際立たせるために、あるいは別場面の氷の作品が視界に重ならないようにするため、雪の壁を作り、さらに雪の壁にも彫刻や模様を施してムーミンの世界観を演出する。

展示されている作品を次々と眺めながら、これに関わった人たちの制作中の気分が伝わってくるような気がした。年を経るごとに新しいアイデアを生かし、新しいことにトライし、そんな人々の愛に溢れた空間。雪の壁に施された些細な模様に、ムーミンたちのように冒険をしてもらおうと仕掛けられたサプライズに、外国人の私を見つけたら「楽しんでくださいね!」と声をかけてくれる整備のおじさんの様子に、ふとした拍子に誰かの思いが伝わり、なんとも幸せになる。

夏の間は氷の洞窟の入り口に防寒具を置いておいてくれるそう。真夏の暑さから逃れ、防寒して真冬の世界に入り込む。愛に溢れた空間でのひととき。チケットは終日使えるので、何度でも行き来していい。氷の洞窟の隣には、ソリ滑りや冬ならではの遊びができるわんぱく広場もある。最近は猛暑と呼ばれる日も増えてきたフィンランドの夏。また夏になったら行こう。氷の洞窟で冒険心や遊び心が刺激されたらホテルの外に出て、そばの湖で泳いだり、森の中を散策するのも楽しそうだ。


ムーミン氷の洞窟の詳細はこちらから。
https://www.icecave.fi/frontpage


登場回数は少ないけれど印象に残る、そんなキャラクターにも出会える

森下圭子