ムーミンはカバじゃない! じゃあ何?

ムーミンクイズ第2回の問題はズバリ、「ムーミンはカバじゃない! じゃあ何?」 動物だとしたら、何の動物だと思いますか? 動物じゃないとしたら、妖精か妖怪か、はたまた人間だったりして!?

正解の前にまずは、よくある誤解を解いておきましょう。「ムーミンはカバじゃなかったの!?」と驚かれた方はいません……よね!?

以前は、ムーミンはカバだと信じている方が少なくなかったように思います。1969年から放送された昭和版アニメ『ムーミン』(フジテレビ系)で、本来は白いはずのムーミントロールやムーミンママ、ムーミンパパの体に薄い青やグレーの色がつけられていたこと、キャラクターの初期の顔が角張っていたことなどが、カバっぽさを増長させていたのかもしれません。

ムーミンがカバだと誤解されていることは原作者トーベ・ヤンソンの耳にも届いていたようで、ムーミン・コミックス『ムーミン、海へいく』(筑摩書房/冨原眞弓訳) 収録の「ジャングルになったムーミン谷」には、ムーミン一家が動物園に閉じ込められる衝撃のエピソードが登場します。

かつてない暑さに見舞われ、熱帯の植物に覆われたムーミン谷。しかも、いたずら好きのスティンキーが動物園のトラやワニ、サルを逃がしてしまって、ムーミン谷はジャングルと化します。動物たちを連れ戻そうとやってきた動物園の職員たちは、ムーミン一家をカバだと決めつけて、檻に入れてしまうのです!

ムーミンたちは必死で「自分たちはカバじゃない、ムーミンだ!」と主張しますが、職員は聞く耳持たず。ミイの連れてきた動物学者が「ムーミン族はカバとは無縁」と証明してくれて、無事にムーミンハウスへと戻ることができたのでした。

カバはカバで頭のいい魅力的な動物ですが、ムーミンはカバではないことがはっきりしました。じゃあ、ムーミンの正体とはいったい何なのでしょう? 「妖精」? 残念、それも正解とは言えません。

トーベが書いたスウェーデン語でのムーミンの名前はMumintrollet。日本語では英語読みのムーミントロールと訳されていますが、トロールというのは北欧の伝承に登場する妖精の一種です。西洋では妖精(フェアリー)やトロールの定義が明確ですが、日本では伝承や想像上のかわいらしいキャラクターを広く「妖精」と呼ぶことがあります。その意味では「ムーミンは妖精」は間違いとまでは言えません。

しかし、巨人だったり、小さかったり、トーロルのイメージはさまざまですが、たいていは毛むくじゃらで、暗いところを好む、ヒト型の生き物を指します。一方、トーベが生み出したムーミントロールは、白くて、明るいおひさまが大好き。伝統的なトーロルや妖精とはまったく異なる、オリジナルの生き物です。

『ムーミン谷の十一月』(講談社刊/鈴木徹郎訳)の訳者解説によれば、ムーミンは動物か、人間か?」と問われたトーベの答えは、スウェーデン語の「Varelser」だったそうです。日本語では「存在するもの」と、少し難しい言葉に訳されてきましたが、想像上のものも含む「生き物」ぐらいの、ありふれた単語。トーベは、ムーミンが妖精だとはけっして答えなかったんだとか。精霊や妖怪ではなく、目にははっきり見えなくてもすぐ近くで生きている存在だと、伝えたかったのかもしれません。

ちなみに、ネット上で囁かれている「核戦争の影響で人間が変異したミュータント」とか「人造人間」とか「未来人の生き残り」といった都市伝説も、すべて間違い。スナフキンやリトルミイは人間だと思っていらっしゃる方も多いかもしれませんが、彼らもムーミンとは種族の異なるVarelserです。

というわけで、正解は「Varelser」「ムーミントロールという生き物」でした。正体が何だったとしても、ムーミンたちが愛すべき生き物であり、わたしたちの心のなかに確かに存在することに変わりはありません。また、そんなムーミンたちの存在をどのように捉え、想像をふくらませて、どのようにつきあっていくのかは、わたしたちひとりひとりの自由でもあります。でも、やっぱり、カバは否定しておきたいですよね、ムーミン族の名誉のために!

萩原まみ