(100)ムーミン谷の十一月
トーベはそこで『ムーミン谷の十一月』を執筆し、そして本が出ると、一冊をグスタフション家に嫁いできていたお嫁さんにもプレゼントした。この話は多くをペッリンゲで書きましたとメッセージが添えられていた。そして初めて体験した晩秋のペッリンゲは美しかったと続く。
11月というのはフィンランドの人にとっては一番厳しい時期だ。厚い雨雲が空をおおう毎日で、太陽のある青空が思い出せないくらいになったり、会社に行くときも会社を出るときも暗がりの中を歩くほど、日照時間が短い。雨が多く、ヘルシンキだと雪が降ってもすぐ消える。雪があれば外は少し明るくなるのにと、ぼやいてしまう。
今年は記録的な暖かい秋が続いたこともあり、11月になっても海にでられるほどだ(フィンランドは海が凍るため、秋が深まる前にボートを陸に上げてしまう)。
そんな暖かい秋ではあるけれど、私もはじめてペッリンゲの11月を体験させてもらった。取材で訪ねたペッリンゲは、ころころとお天気が変わった。海が時化ることもあれば、水面が鏡のように凪いでいることもある。遠くのほうで雨雲が雨を降らせている様子が見えたかと思えば、少し先に低い低い雲のような霧がふわふわと浮かんでいたりする。夏の終わりの靄とはまた違っていて、ふと『ムーミン谷の十一月』の挿絵を思い出した。そうだ、まさにそんな感じだ。
森もまた広葉樹はすっかり葉を落としていた。葉がついていたときにはスルスルと歩いていたところなのに、葉を落として枝だけになった森は、木々の間を歩いていくとチクチク刺さりそうで少し怖いほどだ。チクチクする枝が重なり合う森は、少し怖そうで、でも遠くが見渡せて、場所によっては森の先に海を見つける新発見もあった。ああ、この森もまさに挿絵の中の世界だ…何度となく挿絵のことを思い出していた。
図書館で借りるムーミンの本は、よく子供がぬり絵よろしく色をつけていたりするのだけれど、色がぱっと浮かぶほど、ムーミンの挿絵の世界はフィンランドの子供たちにとってリアルなのだろう。そういえば、アラビアのムーミンマグのデザイナー、トーベ・スロッテさんも、デザインの醍醐味や楽しみのひとつが色をつける作業だとおっしゃっていた。白黒で描かれたムーミンに色をつけること、時々その色は、明確にお話の中に登場していたりするのだそうだ。
森下圭子
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