(116)バレエとマグの『たのしいムーミン一家』
つい先日、フィンランド国立バレエ団の『ムーミン谷の彗星』が再演された。次は日本での公演、しかもフィンランドよりも先に、というか世界に先駆けて日本で『たのしいムーミン一家』が上演される。
彗星のほうが「ああ!この作品にはバレエの要素になる話が詰まっていたんだ!」というバレエだとすれば、『たのしいムーミン一家』は、この物語にインスパイアされて、よりバレエとしての完成度をあげたバレエ作品が誕生したという感じ。分かりやすくいうと、物語にでてくるバレエとして美しい場面、バレエにするとより直接的に伝わるような場面で作品が構成されているといえばいいか。
冬から春になるときの光や空気の移ろいゆく感じなどは、バレエになってみてみると、静かに一人で読書しているときとは違った面白さがある。いつものトゥシューズと違って、スノークのおじょうさんが、時間をかけてジリジリとつま先で立っていく様子の印象的なこと。女の子たちだけでなく、いい歳した私でさえ、こっそりつま先だちの練習をしたくなるほどだ。
日本ではバレエ作品としてやってくる『たのしいムーミン一家』、フィンランドではアラビアのムーミンマグとして登場する。
フィンランドのタンペレ市に6月17日オープン予定のムーミン美術館とのコラボで実現したアラビアのムーミンマグだ。発案はアラビア社でもムーミン美術館でもなく、タンペレ市の市長特別補佐官(おじさん)の提案だったとか。
この提案を受けて美術館もアラビア社も大乗り気、この組み合わせだからこそ実現することをしようと、なんとトーベ・ヤンソンの原画がそのまま使われることになった。
アラビアの得意とするところは豊富な色。ムーミンマグもカラーの原画を使おうということになり、全員一致で『たのしいムーミン一家』のために描かれた1950年のガッシュ画を採用した。これは1960年代に出たフランス語版の表紙になっている。
原画は空調を整えたケースに収められ、スタッフ二人がつきっきりの状態でアラビア社に運び込まれた。できる限り忠実に色を再現すること……結果として、通常は10色ほどのムーミンマグに対し、今回は27色となった。
配置を変えたり別のところから絵をもってきたりする通常の再デザインは行わず、トーベ・ヤンソンの原画をそのまま使った。マグのカーブにあわせる調整をしているのみだ。
マグをぐるりとまわしながら柄を眺めていると、平面で原画を見ているときとは違ったところに目がいく。マグは全体でなく、一部分だけが目に入るからだろうか。花ひとつに、原画を鑑賞したときとは違った思いを抱くことに気づく。
『たのしいムーミン一家』がバレエになり、マグになり、これまでには気づかなかったことや新しい楽しみ方に出会えている。原作に忠実になるだけでなく、原作から飛び出してなお、原作の魅力を違ったところから気づける。これもまたムーミンの醍醐味だと思う。
森下圭子
ムーミンバレエ日本公演の詳細は
https://muumimuseo.fi/