(36)ムーミンアニメのフィンランド語
ムーミンアニメをフィンランド語訳した翻訳家のイェルッタは、いまでも「あのー、あのー」って日本語を覚えてるのだそうだ。さまざまな子供番組のフィンランド語訳を手がけてきたからか、ムーミンの翻訳の依頼がきた。ムーミンアニメの原語だった日本語はチンプンカンプンなのにだ。やりながら、外来語が意外と多いことに気づいたり、「あのー」もこれで覚えたらしい。
「実はね、ちょっと助かったのはムーミンの口。ほら、控えめでしょ。でもスナフキンとかミィはねぇ。」ノノ彼女は2種類の英訳を手渡された。長さは全然違うし、どっちをとっていいのかさっぱり検討がつかない。結局はほとんど自分で、それこそフィンランド語台本を一から書き上げるくらいの気分だったそうだ。でも台本を手がけるようにすると、自分の自由が出すぎてしまって登場人物が口をあけている時間が合いにくくなったりする。なんとも大変な作業だったそうだ。
ひょんなことがきっかけで、ついこの前会ったばかりの彼女のお宅に呼んでいただき、彼女がどんな風に仕事をしてたのか見せていただいた。彼女と、2歳の子の母になった彼女の娘さんと3人で改めて見てみて、改めてムーミンをみながら、「口って原作にはほとんどないし、キャラクターグッズでも見られないし、でもアニメで会話する限り必要だよね。ムーミンの口ってきっと苦労しただろうね。」なんて感激したりしていた。イェレッタは、きっと当時そんなこと考える余裕すらなかったかもしれない。
ムーミンのアニメに登場する歌は、実際に娘さんたちに歌わせてみて歌の感じをチェックしていたんだそうだ。今でもムーミンワールドで流れているし、小さな子供たちには欠かせない歌の数々。今でもアニメのムーミンCDは人気グッズの一つだ。
この訳者、実はアニメの吹き替えを担当する声優さんの選択にも加わる。当時は一人ずつやってきて声を吹き込んだらしいのだけれど、そのときも彼女が必ず同席し、タイミングをはじめ、いろいろ指導していたのだそうだ。あとは現場で言葉を変えたりって、ここまでくるとディレクターみたいだ。ここまでどっぷりと、そしてたっぷりとアニメのフィンランド語版に関われるなんてどんなに幸せだろうノノ通常よりずっと長いシリーズだったせいか、途中声優さんの前歯がなくなってて、慌てて入れ歯を作りにいかせる手配までしていたようで、大変なこともきっと多かったのだろうな。でもやっぱり楽しそうだ。今でもCD絵本をはじめアニメを元にしたグッズが続いていて、「細々ながらムーミンと一緒に生活しているわよ」と、定年が近づき趣味の時間のほうが多くなってはいるものの、ムーミンとの時間は続いている。やっぱり幸せだな。彼女の趣味は、絵画とセーリング(海)。やっぱりムーミンがぴったりだ。
森下圭子
原作の朗読だけでなく、アニメ版のお話CDも人気。こちらはアニメ版のまだカセット時代のもの。
フィンランドの「ネイチャー」誌に登場したムーミン。ムーミン世界にある特徴的な自然はどこから?...と検証した特集。