謎がいっぱい!? ムーミン族のご先祖さま【ムーミン春夏秋冬】

80周年で盛り上がった2025年、猛暑の夏もようやく終わり、ほっこりと暖かいものを恋しく感じる季節がめぐってきました。そんな10月のブログ「ムーミン春夏秋冬」でクローズアップしたいのは、ふさふさの長い毛で覆われたご先祖さま。登場シーンは多くありませんが、密かな人気キャラクターなんです。

 

ご先祖さまが登場するお話は?

9巻のムーミン小説のなかで、ご先祖さまが実際に出てくるのは『ムーミン谷の冬』だけ。挿絵も数点しかありません。
どんなふうに描かれているのか、順を追って見ていきましょう。

冬眠から目覚めてしまったムーミントロールは、トゥーティッキから水あび小屋に招かれます。ほんとうはムーミン一家の持ち物である水あび小屋ですが、冬の間はトゥーティッキが暮らしていました。

初めて見る真っ白な雪に覆われたムーミン谷、慣れ親しんだ夏とはまったく違う小屋の様子、心細くなったムーミントロールは部屋のすみのクローゼットに目をやり、自分の古いビーチガウンが今もそのまま掛かっているのを確かめたい、と考えます。

「あのクローゼットはぜったい開けてはだめよ。どんなことがあっても開けないって、約束してちょうだい」
「ぼくは、約束なんてしませんよ」
(新版『ムーミン谷の冬』講談社刊/山室静訳より引用)

そう言いつつも、ムーミントロールはこのときはトゥーティッキの言葉に従って、クローゼットを開けませんでした。

ご先祖さまが潜んでいた場所は?

真冬のムーミン谷は太陽が昇らない闇夜。ムーミントロールは厳しい寒さにうんざりしながらも、氷姫を見て凍りついてしまった子りすのお葬式をしたり、謎めいた生きものたちと冬の大かがり火を囲んだり、さまざまな経験をします。そして、トゥーティッキから「お日さまが明日帰ってくる」と告げられたときにはとてもうれしくなって、その瞬間を心待ちにしました。

それなのに、お日さまはほんの一瞬、水平線の彼方に顔を出して赤い光を投げかけたかと思うと、あっという間に沈んでいったのです。裏切られたような気持ちにかられたムーミントロールは衝動的に水あび小屋に駆け込み、クローゼットの扉を開け放ちました……!
床のうえで、長い毛におおわれた、灰色の大きな鼻をしたものがこっちをにらんでいます。それはさっと足元をすりぬけ、黒いひものような尻尾をひるがえしながら、いなくなってしまいました。

「おやおや、あんたはけっきょく、クローゼットを開けずにはいられなかったのね」
「おいぼれねずみみたいなのが、いただけだい」()
「あれは、トロールなの。あんたも、ムーミントロールになるまえは、ああいうトロールだったのよ。千年まえは、あんなふうだったわけ」()

ムーミントロールは驚いて、ムーミンやしきに戻ると、屋根裏で古いアルバムをめくりました。あの生きものと似ているものなどひとりもいません。でも、眠るムーミンパパを眺めると、鼻だけは似ているような?

 

ご先祖さまとの再会

ふいにシャンデリアのところで音がしました。見上げると、ご先祖さまの姿が! 話しかけてみたものの、言葉が通じないことを恐れたムーミントロールは「しいっ」と制止しました。そして、ランプを手に、フィリフヨンカの絵や椅子、海泡石の電車など、ムーミン家の宝物を見せてあげたのです。ムーミントロールがランプをタイルストーブの台に乗せるとご先祖さまの様子が一変。シャンデリアからどすんと飛び下りて、タイルストーブのまわりをちょろちょろし始めました。

ムーミンママが以前、「自分たちのご先祖たちはタイルストーブの後ろで暮らしていた」と語っていたのを思い出したムーミントロールは血のつながりを確信。そのとき、目覚まし時計がけたたましい音を立てました。日暮れの人恋しさを紛らわせようとセットしていたのです。ぎょっとしたご先祖さまはタイルストーブの中に飛び込んでしまいました。

その夜、ご先祖さまは模様替えをやってのけました。ソファーをタイルストーブのほうへ寄せたり、屋根裏からがらくたを引っ張りだしてストーブの周りに積み上げたり。様子を見にきたトゥーティッキは、居心地がよくなるようにそうしたのだろう、と言います。
広い家のなかで起きているのは自分ひとりで、ずっとさみしい思いをしてきたムーミントロールは、ご先祖さまが集めたガラクタの中にもぐり込んでみました。すると、そこがとても居心地のよいことに気づいたのです。

その後も、ムーミントロールはご先祖さまの気配を感じながら、邪魔をしないように、できるだけ静かに過ごしました。

長い冬がようやく終わる頃、風邪をひいてしまったムーミントロール。それまで何があっても起きなかったムーミンママは息子のくしゃみの音ではっきり目を覚ましました。ママのこしらえた温かい風邪薬を飲み、眠りに落ちる前にムーミントロールがひとつだけ伝えたのは「ご先祖さまが住んでいるからタイルストーブで火をたかないで」ということでした。

 

ご先祖さまの年齢は!?

あらすじとしては、『ムーミン谷の冬』で描かれるご先祖さまの場面は以上がほぼすべて。続く、『ムーミンパパ海へいく』で灯台の島に出かけた際、ムーミンママはタイルストーブに触らないようにと貼り紙を残します。

『ムーミン谷の十一月』は、一家の留守中、ムーミンやしきにやってきたスナフキンフィリフヨンカミムラねえさんヘムレンホムサ・トフトスクルッタおじさんのお話。居間のたんすの上にご先祖さまの肖像画が飾られているという記述と挿絵が出てきます。

「タイルストーブの中にいる、ご先祖さまよ。年は三百歳よ。もう、冬ごもりして眠っているわ」
ミムラねえさんは説明しましたが、スクルッタおじさんはだまっていました。
(わしよりも、もっと年よりがいるなんて、うれしいことだろうか、腹の立つことだろうか)
おじさんはその問題に、すごく興味がわきました。一つ、ご先祖さまを起こして知り合いになってやるぞ、と決心しました。
(新版『ムーミン谷の十一月』講談社刊/鈴木徹郎訳より引用)

スクルッタおじさんはご先祖さまに関心を寄せ、タイルストーブに向かって話しかけますが……。はたしてふたりは知り合いになれるのか、ぜひご自身で確かめてみてくださいね。

 

ご先祖さまの謎

『ムーミン谷の冬』でトゥーティッキは「千年まえはあんなふうだった」と言っていましたが、『ムーミン谷の十一月』のミムラねえさんは「三百歳」と言っています。謎多きご先祖さまですが、もっとびっくりなことにコミックスのご先祖さまは小説とはまったく別人なんです。

コミックス「おさびし山のご先祖さま」で無人島に不時着したムーミンたち。石器時代の住居らしき洞穴で太古のムーミン族のミイラを見つけ、外に引っ張りだすと、なんと息をふきかえして……!

コミックスのご先祖さまは3人組。見た目は異なりますが、火を好むという共通点が。また、鼻がひょろっと細長いところは最初の小説『小さなトロールと大きな洪水』のムーミンたちにも少し似ていますね。

 

ご先祖さまが気になる方に

ムーミンバレーパーク、展示施設コケムス二階の「ムーミン谷のギャラリー」では、小説とコミックス両方のご先祖さまの紹介を見ることができます。また、ムーミン屋敷の二階にある肖像画と、その上の天井には、驚きの仕掛けが隠されていますよ。
ムーミンバレーパークでは、20251026日(日)まで「ムーミンバレーパークのハーベスト」111日(土)~1225日(木)は「ムーミン谷のクリスマス」と季節のイベントも目白押しです。

挿絵が数点しかないにもかかわらず、愛らしい姿とミステリアスな雰囲気でグッズでも人気のご先祖さま。定番のMOOMIN ARABIA マグのほか、新商品のSUSHI湯呑アクスタスタンプコレクション刺しゅうステッカーステッカー3枚セット、ご先祖さまになりきれる(!?)もこもこボアパーカーにシルバー素材のリングといった、個性なアイテムがたくさん。MOOMIN SHOP ONLINEでは現在販売中のぬいぐるみなどに加え、10月16日(木)に新商品発売を予定しているとか。どうぞお楽しみに!

ちなみに、コツコツ集めた我が家のご先祖さまコレクションがこちら(現在は販売終了のものを含む)。どれもかわいいですよね!

文と写真/萩原まみ(textphoto by Mami Hagiwara