(56)ひとり立ちの島

今月も島のはなし。『ムーミンパパ海へいく』の舞台になったといわれる灯台の島、ソーダーシャール。この島に足を運ぶたび、自分の興味がこの作品のムーミントロールに向くようになった。

この島は少しずつフィンランド国内でも知られるようになり、私の周囲でも行ったことのある人たちが増えてきた。誰もが楽しいという島。いろんな人の感想を聞くうち、小さな男の子たちの島での様子に共通点があることと気づいた。

どうもこの島は男の子たちの独立心をくすぐるようだ、ってこと。

実は男の子だけじゃなくて私もそうだった。島に足を踏み入れたとたんに「楽しい!」と足が勝手に動き始める。あちこちを探検しようとウキウキする。自分だけの場所を見つけよう、自分だけが知る秘密を見つけよう、なんだかとても張り切ってしまうのだ。

男の子たちのお母さんたちが口を揃えて言ったのは、普段はどこ行くときもゲームばかりしている子まで「僕ここに泊まりたい、ここにもっといたい」と訴えてきたというのだ。真夜中に一人で島に佇んでみたり、一人で冒険を繰り返すとか。ムーミンみたいだ。この島でいちばん時間を費やしている男の子たちといえば灯台のオーナーの息子たち。ふたりめを身ごもってたとき旦那さんに「灯台買うことにした」と言われ、愕然としたという奥さん。今ではその息子たちの島での様子に、旦那さんの無謀に見えたお買い物も「これで良かったのね」と思うようになったという。男の子たちのムーミンっぷりはすさまじく、なんと上の子は8歳にして吊り橋から海にむかって飛び込むという遊びを見つけて大はしゃぎしていたのだとか。そして思う、そんなことを温かく見守れるお母さん、すっかり彼女もムーミンママ然としてるではないか。

残念ながら男の子たちがこの島でどんな風に夜を待つのか、朝を迎えるのか、まだ自分の目で見たことはない。いつか、ここに長めに滞在してそんな子供たちに出会ってみたいと思う。自分の好奇心が暴走してそれどころではないかもしれないけれど......。

森下圭子

灯台の上から眺めても存在感抜群の吊り橋。ふだんは3人以上は同時に橋を渡らないようになんていわれる。それくらい揺れる。そんなところから飛び込むなんて。

かつてはここから30キロ先まで光が行き渡り、船を導いていた。トーベがここを行き来していた頃は、まだまだ現役で活躍していた灯台。