ムーミンのしっぽは何色に変わった?
2020年、記念すべきムーミン75周年イヤー最初のムーミンクイズは、主人公ムーミントロールのとても大切な体の一部からの出題です。あるとき、ムーミントロールのしっぽに異変が起きました。何が起こったの!?といういきさつは後ほど詳しくご紹介するとして、今回のクエスチョン! ムーミンのしっぽはいったい何色に変わってしまったのでしょうか?まず、ムーミンたちにとってしっぽがどれほど大事なものか、よくわかるエピソードと挿絵をいくつか見ていきましょう。小説『ムーミンパパの思い出』のなかで、まだ少年だったムーミンパパは海に落ちてしまいます。なにかがこっそりとわたしのしっぽをつかみました。しっぽのある生きものなら、だれだって知っていますが、この特別なかざりはとてもこわがりで、危険や失礼なことに出会うと、瞬間的に反応するものなんですよ。
(『ムーミンパパの思い出』講談社刊/小野寺百合子訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)
『ムーミン谷の彗星』で、ムーミントロールは恐ろしい食肉植物アンゴスツーラに襲われたスノークのおじょうさんを助けるために戦います。ムーミントロールは、しっぽをいさましくふりたてて、ひらりひらりと飛びはねながら、ときどきアンゴスツーラに切りかかっては、つぎからつぎへと、にくまれ口をあびせかけました。(略)ムーミントロールは怒りと緊張で、顔をまっ赤にしていました。しまいには、手足としっぽをぶるんぶるんふり回しているのが、見えるだけになりました。
(『ムーミン谷の彗星』講談社刊/下村隆一訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)
スノークのおじょうさんから感謝のメダルを受け取るムーミントロールのしっぽは、喜びと緊張でキュッと上がっていますね。
『ムーミン谷の夏まつり』(講談社刊/下村隆一訳/畑中麻紀翻訳編集)には、スナフキンがハーモニカで奏でるみんな大好きな歌が出てきます。その歌は「すべてちっちゃな生きものは しっぽにリボンをむすんでる」というフレーズから始まるのですが、この歌詞、実は新版で原著に忠実な言い回しに変わりました。あれ?と思った方は読み比べてみてくださいね。
では、そろそろ本題。ムーミンのしっぽの色が変わってしまったお話に戻りましょう。ムーミンはこのところずっと不安にさいなまれ、気が滅入っていました。なぜなら、大切なしっぽの先のフサフサがどんどん薄くハゲてきていたから!毛がフサフサのガフサや毛はえ薬を長年愛用しているヘムルに相談したり、袋をかぶせて保護したりしますが、事態は悪化するばかり。ついには心配のあまり寝込んでしまい、お医者さんが呼ばれて、骨格を見るためにレントゲンを撮ることに! 抵抗するムーミンでしたが、レントゲンを治療法だと勘違いしたムーミンパパとムーミンママは「これですぐに元気になる」とレントゲン写真を額に入れて飾ります。この写真は、ムーミンバレーパークのムーミン屋敷にも登場していますよ!ホームドクターも専門医もどうすることもできず、人に頼ってはいられないとムーミンママはおばあさんの魔法の飲みものレシピを引っぱりだします。月夜に薬草を集めて煎じ、熱いうちに十字路で飲むと……しっぽの先にふさがはえてきて、しかも光り始めたではありませんか!正解は黄金、金色でした! ムーミンは一躍、時の人となり、取材を受けて新聞記事が出ると、黄金に輝くしっぽを一目見たいとファンが詰めかけ、たくさんのファンレターが届きます。はじめのうちはちやほやされることを楽しんでいたムーミンでしたが、次第に振りまわされてうんざりしてきて……。 このお話は、ムーミン・コミックス第1巻『黄金のしっぽ』(筑摩書房刊/冨原眞弓訳)で読むことができます。イギリスの夕刊紙『イヴニング・ニューズ』連載時の順番では18話にあたり、作画にもストーリー運びにも円熟みが感じられる作品です。すでにムーミン・シリーズが大人気となり、世界中からファンレターが届き、グッズの企画が持ち込まれて、うれしい反面、対応に苦労していたトーベ・ヤンソンの気持ちが反映されているかのよう。ガフサとヘムルのくだり、冷静なスナフキンの助言の数々、便乗しようとするスニフとスティンキーの企みなどなど、皮肉が効いていてクスッと笑ってしまう場面も。日本語版では第1巻の最初に収録されており、ムーミン・コミックスを代表するともいえる一作ですから、コミックスは読んだことがないという方にもオススメです。
実はこのエピソード、現在シーズン2が好評放送中の新作アニメ『ムーミン谷のなかまたち』シーズン1第5話「黄金のしっぽ」にも使われていますから、アニメをご覧になっていた方はすぐに答えがわかったかもしれませんね。小説『ムーミン谷の夏まつり』とミックスしたアニメオリジナルのストーリーは必見! 「黄金のしっぽ」を含むシーズン1はすでにレンタル開始、2月14日にはDVDとBlu-rayが発売になりますよ!
ところで、このムーミンたちのしっぽ、雑誌『MOE』2019年11月号の「ムーミンには謎がいっぱい!」特集によると、感情に応じて自然に動くもので自分たちの意識で動かすことはできないんだそうです。でも、『ムーミンパパの思い出』には、「おじぎをするときにはしっぽを四十五度の角度でぴんと立てなければならない」というムーミンみなし子ホームのルールが……。しっぽを持たないわたしたち人間にとって、その仕組みを実感するのはちょっと難しいですが、しっぽの動きや角度に注目して見るとムーミンたちの気持ちがより深く理解できるかもしれませんね。
萩原まみ