トーベ・ヤンソンからの手紙【本国サイトのブログから】
トーベ・ヤンソンは何十年もの間、世界中から年間約2000通の手紙を受け取り、その一通一通に返事を出すように努めていました。手紙のほとんどは、子どもや若い読者からでした。その手紙の多くは、例えばムーミン谷の登場人物たちの中で、自分が特に誰に共感したのかというものでした。また、作家になりたいという夢を綴り、自分の憧れでまさに手本となるトーベにアドバイスを求めるものや、病気や親の死、孤独など、人生の辛い局面について書かれたものも多くありました。
トーベからの手紙
Moomin.comには、トーベとさまざまな人々との間で交わされた私的な手紙や、絵葉書のコレクションがあります。これらの手紙の中で、トーベは愛猫プシプシーナのことや、夏を過ごした島クルーヴハルでの暮らし、トゥーリッキ・ピエティラとペンッティ・エイストラと作ったムーミンやしきのことなど、さまざまなことを語っています。
今回は7人の子どもたちやアーティストへの手紙をご紹介しましょう。
トーベからの手紙①「私のトロールを気に入ってくれて、とても嬉しい」
トーベからの手紙②「私の物語を気に入ってくれて、とても嬉しい」
トーベからの手紙③「すべてが価値あるものでした」
トーベからの手紙④「木の上に座って、下にいる人たちを眺めているような気分よ」
トーベからの手紙⑤「この間の夜、本当に彗星を見たのですよ」
トーベからの手紙⑥「険しい場所のように見えるけど、野の花がたくさん咲いているのよ」
トーベからの手紙⑦「今、もしかしたらまた手紙を書くんじゃないかっていう不思議な予感がするのよ」
トーベからの手紙①「私のトロールを気に入ってくれて、とても嬉しい」
これはトーベが1968年に、イギリスの少女トゥルーディ・ハーファムに宛てた手紙です。トゥルーディ・ハーファムは現在イギリスのロンドン・サウスバンク大学で名誉教授をしていますが、彼女も子ども時代にトーベ・ヤンソンに手紙を送った一人です。手紙の中でトゥルーディは、10歳のときにヘルシンキでアトリエ・ファウニのムーミン人形を買ったことを報告しました。トーベもトゥルーディへの返信の中で、ファウニの人形について触れています。
1968年11月1日
親愛なるトゥルーディ・ハーファムへ
素敵なお手紙と、ファウニのムーミン一家のとてもかわいい写真をどうもありがとう。写真は机の壁に飾っていますよ。
私のトロールを気に入ってくれて、とても嬉しいです。お父さまは、あなたのコレクションにムーミンママを加えるのに大変な苦労をされたのね! この人形たちはもうフィンランドでは作られていませんが、もしいつかフィリフヨンカが欲しくなったら、イギリスで売られていると思いますよ。私の出版社(Ernest Benn Ltd. Bouverie House, Fleet Street, London EC4)なら、きっとどこですべて買えるか知っているはずです。
あなたに幸せな秋が訪れますように!
幸運を祈ります!
トーベ・ヤンソン
トーベからの手紙②「私の物語を気に入ってくれて、とても嬉しい」
次に、イギリスの出版社Faberから作品を出版している作家で、短編小説家でもあるルース・トーマスに宛てた2通の手紙をご紹介しましょう。この手紙は、初めFaber社のブログ「The Thought Fox」に掲載されたものです。ルース・トーマスは自身のサイトでも、トーベとの思い出について語っていますよ。
1975年2月
親愛なるルースへ
私の物語を気に入ってくれて、とても嬉しいです。新しい物語を書けるよう、努力しますね。
ノーサンバーランドとパターンキャットのイラスト入りの物語を本当にありがとう。とても感謝しています。あなたはこの素晴らしい青い頭の猫の話を、書き続けるべきですよ!
フィンランドにいる私の猫は真っ黒で、ギリシャ語で「猫」の意味の「プシプシーナ」と呼ばれています。
あなたに幸せな春が訪れますように、
ありがとう
トーベ
1977年10月
親愛なるルースへ
「Puffin Post」への作品の掲載、おめでとう!これから幸運が巡ってきますように。私の『少女ソフィアの夏』を気に入ってくれて、とても嬉しいです。「おばあちゃん」は、私の母がモデルなんですよ。
トゥーティッキがあなたによろしくと言っています! →このプシプシーナはトゥーティッキが描いたものです。
愛をこめて
トーベ
トーベ・ヤンソンと愛猫プシプシーナ
トーベからの手紙③トーベからの手紙 「すべてが価値あることでした」
これは作家でイラストレーターのジェームス・メイヒューに宛てたトーベの手紙です。ジェームズは、自身の本がフィンランド語で出版されたとき、自分がいかにムーミンの物語に影響を受けてきたかを綴った手紙とともに、トーベに本を送りました。これはその手紙への返信です。
1993年1月8日
親愛なるジェームス・メイヒュー
あなたのイラストは素晴らしく、実に自由で、楽しさと美しさに溢れていますね。あなたの本、楽しく読みました。
あなたの手紙は私にとって、意味深いものです。あなたの手紙は、私が自分自身とムーミンの商業ビジネスすべて(ここではブームと呼ばれているんです)にうんざりしていたとき、届きました――そして私は突然、すべてが価値あるものだったということに、完全に気がついたのです――そのすべてが。
たとえ私があの谷に戻ることができなくても、新しい道を見つけることができなくても――やっぱり、それは大きな冒険だったのです――、あなたが手紙で書いてくれたことは、私に喜びを与えてくれています。
あなたの賛辞は本当にちょっと美しすぎるけど、遠慮なく受け入れることにします!
ありがとう
トーベ J.
トーベからの手紙④ 「木の上に座って、下にいる人たちを眺めてるみたいよ」
これは1987年、スウェーデンのヴィーラ・ギレンボルグに宛てた手紙です。トーベの自伝的小説『彫刻家の娘』を読んだヴィーラは、寝棚で寝るのはどんな気分なのだろうという切実な疑問が湧き、トーベに手紙を書いたのでした。トーベはユニセフの絵葉書ですぐにヴィーラの質問に答えてくれました。
1987年4月
こんにちは、ヴィーラ
モランへの手紙と挨拶をありがとう。きっと、モランは自分の詩を送ってもらったのは初めてだったと思いますよ!
もちろん、寝棚で寝るのは楽しかったですよ。木の上に座って、下にいる人たちを眺めてるみたいな、ちょっと優越感に浸れるような。それから、やっと自分の居場所と呼べるものができたという気持ちでした!
素敵な春になりますように
大きなハグを贈ります、
トーベ
トーベからの手紙⑤ 「この間の夜、私は本当に島で彗星を見たんですよ」
これは『ムーミン谷の彗星』(1946年)を読んだジョナサン・マークスに宛てた手紙です。トーベの手紙は、フィンランドで初めてムーミンの作品をテーマにした展覧会の冊子『Mumintrollet i Hvitträsk 1974』と一緒に送られてきました。
ジョナサンへ
想像できるかしら、この間の夜、私は本当に島で彗星を見たんですよ。赤い彗星でした。あなたが私の物語を気に入ってくれて嬉しいです。それは私にとってとても大事なことなのです。
(フィンランド湾沖に浮かぶ最後の島です)
冒険の夏になりますように!
♥
トーベJ.
トーベからの手紙⑥「険しい場所のように見えるけど、野の花がたくさん咲いているのよ」
これはアメリカの作家でアーティストのスティーブ・リヒターに宛てた1977年の手紙です。この手紙の中でトーベは、夏のほとんどを過ごした愛する島、クルーヴハルでの経験を語っています。
1977年9月
親愛なるスティーブ
お手紙をありがとう! 私の物語を気に入ってくれて、とても嬉しいです!この島は、私が一年のうち5ヶ月住んでいる島で、険しい場所のように見えるけれど、野の花がたくさん咲いているのよ。あなたにフィンランド湾の真ん中で、嵐を見てほしいです――素晴らしいですよ。去年の春は、標識柱が吹き飛んでしまいました。今私はまた街にいて、孤独が恋しいです。良い秋になりますように!
トーベ・ヤンソン
トーベからの手紙⑦「また手紙を書くような不思議な予感がするのよ」
これはロス・ジャレットとトーベの1990年代初頭の往復書簡のコピーです。これらの手紙からは、トーベの作品がいかに多様であるかもうかがえます。トーベは返信の1つで、ムーミン谷や、トゥーリッキ・ピエティラ、ペンッティ・エイストラと一緒に作ったムーミンやしきについて触れています。
1992年9月29日
親愛なるロスへ
お手紙をありがとう。
あなたがムーミン谷の模型を作っているなんて、とても興味深いです。私たちも作ったんですよ。友だちのトゥーティッキ、ペンティ、それから私でね。大変だったけど、とても楽しい仕事でした。
完成したムーミンやしきを寄贈した美術館のカタログを送りますね。残念なことに、私たちにはもう遊ぶ時間がなかったの。いろいろ計画したり、製作したりした夜は楽しかった――あなたも同じだといいなと思います。
ありがとう
トーベ・ヤンソン
1993年1月7日
ロスへ
私の本にサインをしてほしいのですね。本の始めの方のどこかにサインを書いたラベルを貼ってもらうのが一番簡単な方法だと思いますよ。
わかると思うけど、私はひどく年取ってしまったし、こういう風にすればあなたからの荷物を郵便局まで取りに行って、また本を送り返しに行く必要もありませんからね。
いいかしら?
愛をこめて
トーベ
1993年10月29日
ロスへ!
金のペンをどうもありがとう!――とてもきれい!!
刻んでくれた言葉は、私だけのものね。今ね、もしかしたらまた手紙を書くんじゃないかっていう不思議な予感がするのよ…
良い冬になりますように―大きなハグを贈ります―
トーベ
トーベからの手紙を募集しています
トーベ・ヤンソンの評伝を出版したフィンランドの美術史家で、作家のトゥーラ・カルヤライネンは、トーベと世界中の子どもたち、若者たちとの往復書簡――、その愛情と敬意にあふれたやりとりをテーマに、新しい本の執筆に取り組んでいます。
トーベは受け取った手紙をすべて保管していましたが、トーベからの返事は受取った人の手元にあります。その中の一部は今も大切に保存されていることでしょう。トゥーラ・カルヤライネンは、この美しい対話を伝えるために、できるだけ多く、トーベからの手紙を見つけたいと考えています。
トーベからの手紙を持っている方がいらしたら、karjalainen.tuula@elisanet.fi までメールでご連絡ください。もしできれば、手紙の画像を添付していただけましたら幸いです。また、郵送での連絡も可能です。
Tuula Karjalainen, Sepänkatu 11 a 9 00150 Helsinki, Finlandまでお知らせください。
トゥーラ・カルヤライネンは評伝に加えて、トーベの人生と作品についての記事を執筆し、国際的に巡回したトーベの大きな展覧会を手がけています。
翻訳/内山さつき