ヘルシンキ市立美術館(HAM)でトーベ・ヤンソンの展覧会が開催中!【本国ブログのサイトから】
ヘルシンキ市立美術館(HAM)で、トーベ・ヤンソンのスケールの大きな作品とその制作過程を紹介する、大規模な展覧会「トーベ・ヤンソン――パラダイス」展が開催されています。
トーベが手がけた作品の中でも、公共空間に設置される芸術作品、パブリック・アートについてはあまり知られていません。この展覧会は、トーベが依頼を受けて制作したパブリック・アートに焦点を当てたものです。
トーベは故郷ヘルシンキの町のさまざまな建物に、公共絵画を数多く描きました。トゥッリンプオミにあるビルディング、アポロンカトゥ女学校、ストロンベルグの工場、ドムス・アカデミカの学生寮、アウロラ病院の小児病棟、1947年にオープンしたヘルシンキ市庁舎のレストランなど。トーベが野心を持って取り組んだパブリック・アートの小さな装飾画から記念碑的な作品までを、これまでにない規模で紹介しています。
初公開の木炭画
展覧会は2フロアにわたり、完成作品、スケッチ、原寸大のスケッチが展示されています。
展覧会のキュレーターを務め、HAMのアシスタント学芸員であるヘッリ・ハルニさんはこう語ります。
「この展覧会によって、トーベの膨大なパブリック・アートの全容と、彼女が用いた絵画の技法がわかるでしょう」
「バードブルー」(1953年)のためのスケッチなど、これまで知られていなかった作品が展示されている。
Photo: Moomin Characters
この展覧会が初公開の作品も。Photo: Moomin Characters
完成した壁画と同じサイズで描かれた木炭画の下絵は、これまで展示されたことがありませんでした。初公開の作品もたくさん見ることができます。
「フェアリーテイル・パノラマ」のための木炭による下絵。1949年 © Tove Jansson Estate.
Photo: HAM / Maija Toivanen.
トーベは、1940年代の初めから1950年代半ばにかけ、10年以上にわたって精力的にパブリック・アートを手がけました。この頃は、初めて個展を開催したり、最初のムーミン本を出版したりするなど、トーベが積極的に創作活動に励んだ時期でもありました。
壁画の中のムーミン
ヘルシンキ市庁舎のレストランのために描かれたフレスコ画「都会のパーティー」や「田舎のパーティー」などの重要な作品では、ムーミントロールが、トレードマークとしてたびたび使われました。「ヤンソンは、ムーミンを一種の分身、またはペンネームのようなものとして描きました。これは、彼女がその数年前、風刺雑誌『ガルム』の挿絵にムーミンを描きはじめたときと似ています」と、ヘッリさんは指摘します。ムーミンのようなキャラクターは、たとえば、1952年にハミナのセウラフオネホテルに描かれた、海をテーマにした壁画にも登場しています。
1952年にハミナ市のために描かれた壁画。Photo: Moomin Characters
フレスコ画「都会のパーティー」。トーベ自身と小さなムーミントロールが描かれている。Photo: Moomin Characters
展覧会会場ではさまざまな仕掛けを使って、子どもと子ども心を持った大人たちを魅了している。
Photo: Moomin Characters
ヘッリさんは、トーベがレストランやオフィスだけでなく、子どもや若者に向けた公共スペースのための大きな作品にもムーミンを描いた経緯を説明してくれました。幼稚園、学校、小児病院などでは、ムーミンのキャラクターたちが勢揃いし、行進して子どもたちを楽しませています。
ムーミンたちの姿は、アウロラ病院の新しい小児病棟の階段と手術室の壁画で、ひときわ注目を集めるものでした。トーベは、1955年にヘルシンキ市が主催したコンペティションを勝ち抜き、この壁画の制作を依頼されています。
展覧会の図録で、ヨハンナ・ルオホネン博士は、ヘルシンキ芸術委員会のアートコンペティショングループがまとめた、この壁画の制作目的を引用しています。「階段の壁の絵は、子どもたちの関心を十分に引きつけて、自分が病院にいることを忘れてしまうようなものにしたい。また、ホールにいる子どもが階段を上り、上の階にはどんな絵があるか見たいと思うような作品が求められる。そうすれば、子どもは、自分が他の階に移動したことにさえ気がつかないだろう」
展覧会会場に再現された、アウロラ病院のために描かれた壁画。Photo: Moomin Character
アウロラ病院のコンペのために描かれた作品。Photo: Moomin Characters
この小児病棟の階段に描かれた作品「プレイ(Lek)」では、スナフキン、スニフ、スノークのおじょうさん、フィリフヨンカ、ムーミンママ、ムーミンパパなどのキャラクターたちが、他の童話の登場人物たちと一緒に階段を上っています。
ルオホネン博士はまた、病院長のパーヴォ・ヘイニオの言葉を引用し、病院に飾られる芸術作品には、気持ちを落ち着かせる効果があると指摘しています。「小さな患者の興味を治療以外のことに向けるのは、子どもたちの
ムーミン 80 周年を飾る展覧会
「トーベ・ヤンソン――パラダイス」展は、2024年10月25日から2025年4月6日まで、ヘルシンキ市立美術館で開催されています。この展覧会はムーミン80周年を記念し、ムーミンキャラクターズの協力のもと制作されました。
2025年は、ムーミンの最初の小説『小さなトロールと大きな洪水』の出版80周年を記念して、さまざまなイベントが企画されています。
日本では、ムーミンキャラクターズとHAMの協力のもと、展覧会「トーベとムーミン展~とっておきのものを探しに~」が開催されます。ムーミンの世界を体験できるような演出や、ムーミンたちが描かれた壁画の紹介も予定していますよ。日本で開催される展覧会の詳細はこちら
ヘルシンキ市立美術館(HAM)について――トーベの母親の名前もハム
ヘルシンキ市立美術館は、2015 年9 月にリノベーションを経て開館しました。HAMとは、Helsinki Art Museumの略ですが、トーベ・ヤンソンの母親、シグネ・“ハム”・ハンマルステン・ヤンソンの名前にもあやかっています。
2016年1月、HAMはフィンランドで初めて、トーベ・ヤンソン作品が常設されるギャラリーをオープンしました。「都会のパーティー」と「田舎のパーティー」の2つの大きなフレスコ画の作品も、そのときここに設置されました。この大きな壁画は、1947年、ヘルシンキ市から委託され、ヘルシンキ市庁舎のために描かれたものです。金属のフレームの中に制作されたこの大作は、1974年にヘルシンキのスウェーデン語系労働者のためのコミュニティカレッジ・アルビスに移され、2014年に国立美術館アテネウムで開催された、トーベ・ヤンソン生誕100周年の展覧会に展示されました。2016年1月、完全に修復されたのち、良好な保存状態を保つため、HAMに永久的に所蔵されることになりました。
トーベ・ヤンソン「田舎のパーティー」
Photo: HAM / Maija Toivanen
Cover photo: Tove Jansson: Bird Blue, 1953. © Tove Jansson Estate. Photographer: HAM / Maija Toivanen.
翻訳/内山さつき