(165)個性が重んじられる社会で
イースターの時期に、今年もまたひとつだけチョコエッグを買った。ムーミンに登場する12のキャラクターからどれか一つが入っているチョコエッグだ。私にとっては新年のおみくじに気分は似ている。
ヘムレンさんがでてきた。案の定ってやつだ。我が家にはチョコエッグのヘムレンさんフィギュアが、50以上ある。もう17年も前のこと。当時人手が足りないときにヘルシンキのムーミンショップの店番をしていた私は、チョコが割れて売り物にならないからとスタッフのおやつになっていたチョコエッグをいただいた。生まれて初めてのムーミンのチョコエッグ。チョコの中のカプセルからは、ヘムレンさんがでてきた。なんだろう、これじゃない感。目の前には割れたチョコがあと3つ残っていた。カロリーのことは忘れよう。次のチョコを手にしてカプセルを開けたら、またしてもヘムレンさんがでてきた。その日、そこにあった4つから出てきたのは、すべてヘムレンさんだった。
そんなこんなで、私の元にはヘムレンさんが集まり続け、いまは50を超える。半ばやけくそ気味にヘムレンさんを並べて(遊んではいるのだけれど)、たまにインスタグラムに投稿してみると、これが意外とウケる。同時にフィンランドの人たちは、ヘムレンの群れを見ては「軍隊」と呼んだ。同じ姿をした人たちがたくさんいると、フィンランドの人にはそう見えるのか?と思うと面白い。
日本の人とヘムレンさん50個で遊ぶと、目の位置の違いに気づいたり、ちょっとした違いを探したりする。でもそういえば、フィンランドの人たちが、この同じ姿の中から細かな違いを探すということはあまりしない。
フィンランドでムーミンの物語を自分たちのことだと言う人は多い。フィンランド、確かに誰が見ても認識できるくらい、個性のたつ人が多い。この社会では調和より、まずは個性を尊重する。もちろん皆と同じがいいと考える年頃はあるし、小さな頃から個性と言われてプレッシャーになる時期もある。だけど、個性が尊重される社会の中で、つまりムーミン谷のような場所で生きていると、ぱっと見同じような姿がいっぱい並ぶのは、軍隊くらい特殊なものに見えるのか。
そういえば、トーベ・ヤンソンの世界旅行のドキュメンタリー映画で、日本の旅先で修学旅行と思われる男子学生たちを目撃する場面がある。そのときトーベは、学生服姿の彼らを「軍隊」だと思っていた。
かもめや羊の見分けはつくけれど、人が同じ服を着ていると「軍隊」になる感じ。それを面白いなと感じるのは、私のルーツが日本ってことなんだろうなと思う。すでに日本で過ごした時間よりも長い時間フィンランドで暮らしていても、だ。小さな差異を見つけ出す楽しさってもありますよね。とはいえ、これ以上ヘムレンさんのフィギュアが増えませんように。
森下圭子