(95)危険な夏至祭

klovharu

トーベ・ヤンソンが夏を過ごしたクルーヴハル。この島には今年も多くの鳥が産卵し、雛を育てている。

 

夏至祭というと、フィンランドには昔からの風習がいくつもある。サウナ、かがり火、ダンスなど。ムーミンに登場する花を摘むのもそのひとつ。今では7種類だけれど、昔は9種類だったという。確かにムーミンでは9種類だ。花を摘んでいるときは決しておしゃべりはせず、摘んだ花は枕の下において寝る。すると夢に未来のだんなさんが現れるという。もっぱら女の子たちのものといった感じではあるけれど、でもおばさんの年齢になっても結婚していても、夏至祭に花を摘むのは格別に楽しい。とはいえ40代6人で過ごした今年の夏至祭、私たちは「食べられる」野の花を摘むことにし、枕の下でなく、サラダに加えて食べることにした。

『ムーミン谷の夏まつり』の原題は、直訳すると『危険な夏至祭』。花を枕の下におかずに食べちゃえと思ったのは「危険な」というムーミンの言葉が影響しているのかもしれない。事前にみんなで相談して、この夏至祭は各国語の『ムーミン谷の夏まつり』を集め、それらを読みあうことにした。ムーミンを少し読んでからだと、夏至祭の伝統をなぞっていても、「何か起きそう」な予感がしてくる。焚き火でパンケーキを焼いていると、突然厚い雨雲が立ちのぼり、夕立に見舞われる。夏至祭最大のイベントでもある大きなかがり火をしようとしたら、脇の木にフィンランドでは珍しいコアカゲラが巣穴を作り雛を育てているのを発見、急遽かがり火は中止。

りんごの木々に囲まれた古い家を訪ねた夏至祭の日。居間には100年以上の立派なタイルストーブがあって、「ね、ムーミンのご先祖さまが住んでいそうでしょ?」と案内してくれた友人が話していた矢先のこと。ストーブの裏からネズミが走りでてきた。小さな毛むくじゃらの……「あっ!」。友人と私は同時に同じことを考えていたようだ。そういえば、ご先祖さまは毛むくじゃらだ。

ご先祖さまのモデルって……そう笑いながら思い出したことがある。「ニョロニョロのモデルはきのこ」説だ。これは何人かのフィンランド人が言っているに過ぎないけれど……ふとりんごの木が続く庭に目をやると、こんどはきのこを発見。来年もまた『ムーミン谷の夏まつり』を読みながら夏至祭を迎えようと思う。楽しいことが起きそうだ。

森下圭子

stiches

フィンランドでは字を覚える前に針や小刀が使える子供も多い。小さな子がいるサマーハウスに遊びにいくときの、ちょっとしたお土産にもよさそう。