(101)ムーミン博士

joulukuu

今年は夏至祭とかわらない?と本気で言ってしまうほどの暖冬。ペッリンゲの海もこのとおり、まだボートで釣りにでられてしまう。

 

フィンランドではさぞやムーミン研究が盛んなのかと思いきや、実はあんまり。実はムーミンで博士をとった人もこれまで一人だけ。

それがシルケ・ハッポネン。日本でも『ムーミンキャラクター図鑑』がでているほか、ネットで話題になったフィンランド国立バレエ団のムーミンバレエのアドバイザーなども務めている。ムーミンのことはどんな質問にも即答してくれるし、嬉しそうに夢中で話をする一方、日常のことがいきあたりばったりだったりして。まるでムーミン谷の住人のような魅力のムーミン博士なのだ。

先日『ザ・プロファイラー』でインタビューをお願いしたときも、携帯電話は家に忘れてきちゃうし思い切り遅刻しちゃうしと、髪をふり乱しながら飛び込んできた。ドタバタとコミカルな登場だったのに、その佇まいは妖精のようにふわっとしてかわいらしく、一旦トーベの質問がはじまると、彼女の話はとまらなくなり、そして沢山の興味深い話をしてくれた。

シルケとムーミンとの出会いは、本棚にあった『ムーミン谷の仲間たち』の表紙だったという。とにかくその表紙の美しさがたまらなく好きだったのだそうだ。お母さんにお願いして、本棚の上のほうに表紙が見えるようにいつも置いてもらっていたほど。少し霧がかった森の様子がとにかく好きで、当時の気持ちはいまでもよく覚えているという。のちに絵本、そして童話とムーミンを読み進めていくけれど、ムーミンを研究しようと思ったのは、ずっとずっと後のこと、大学で勉強しているときだったという。

私たちはシルケの博士論文を前に、12月のフィンランドのカフェでお茶をして、ああでもないこうでもないとおしゃべりをしていた。しだいに話は『もみの木』のことになった。実はトーベ・ヤンソンはこの作品のためにいくつもの絵を沢山描いている。『ムーミン谷の仲間たち』は他の作品と明らかに挿絵の作風が違うのだけれども、これはトーベが意図的に手法を変えて挿絵を描いていたから。太めのペンで勢いよくいくつもの絵を描いていく。通常は鉛筆で下書きしたものを細いペンでなぞっていくのだけれども、この作品の挿絵のほとんどは、この勢いよく描いたペン画をそのまま挿絵に採用しているのだ。

この作品のいくつもの絵を、シルケは卒論の中で紹介している。勢いのあるペン画で描かれた急ぐ人々は、臨場感たっぷりで、本当にクリスマスを前に慌てている人たちそのものだった。そう、私たちが呑気にお茶している周辺を、プレゼントだツリーだと忙しそうに通り過ぎていく今のフィンランドの人たちの姿とも重なるのだ。

私はバタバタしている様子を見るのが大好きで、実は交通網がすべてストップする前の24日、クリスマスイブの午前中の町中を歩き回るのが大好きだ。買い足しの最後のチャンス、必死なんだけれど、目の前にクリスマスが待っている楽しさも滲み出ていて、そんな人々の様子がたまらなく好きなのだ。ひょっとして、これってトーベの挿絵を彷彿とさせていたからだろうか。

メリークリスマス!そして良いお年をお迎えください。

森下圭子

sirke

ムーミン博士シルケ・ハッポネンの博士論文より。短編『ムーミン谷の仲間たち』のための絵。スケッチに見えるけれども、ここから選んで、そのまま挿絵とした。