(74)ムーミンマグの22年

ロホヤという町で『ムーミンマグの22年』という展示があった。アラビアのムーミンマグが誕生して22年、マグの他にお馴染みのお皿やボウル、かつてシリーズ化されていた記念プレート、それから時計にフィギュア、会社の合併によってアラビアがフィンランドのいくつかのブランド(イッタラ、ハックマン、フィスカルス)と一緒になってからは、グラスや鍋、ハサミまででてきた。これらのデザインを一手に引き受けているのがトーベ・スロッテ。もともとは陶芸家としても評価の高かった彼女がムーミンマグの誕生から今日まで、産休の時期を除いて、一人でずっと手がけてきたのだ。この展示はトーベ・スロッテがこれまでムーミンと共に歩いてきた22年を一挙に紹介するもので、彼女のスケッチや試作品なども展示されていた。

実は彼女にお目にかかったら、ひとつ直接伺いたいことがあった。それは今冬のマグのこと。アラビアのムーミンマグについて、インターネットで人気連載をされている萩原さんとの話がきっかけだった。「あの冬マグのトナカイっていったい???」と、何とか糸口がないか、あれこれ考えてみるのだけれど、どれもしっくりこない。コミックを含めたムーミンの本の中に見当たらないし、そもそも絵のタッチがムーミンたちのそれとは違うように思われる。トナカイをあんなにリアルに描くことは「どこでもなくてどこでもある」ようなムーミン谷には合わない気がする。トーベ・スロッテは長年ムーミンと関わっていることから、トーベの絵に付け足して描くことも信頼されているとはいえ、彼女がこんなに大胆にトナカイを描き足すことは、やっぱり考えにくい。しかも彼女はなるべく原作からということを第一に考えているので、何かを自分で描き足すより、他のエピソードからでもぴったりの絵を探して完成させたいという姿勢でトーベ・ヤンソンの世界を大切にしている。

トーベ・スロッテは笑いながら「そうよね、不思議よね」とすぐにその話をしてくれた。実はあの絵、ムーミンキャラクターズ社の担当者が見せてくれた絵だった。トーベ・ヤンソンがむかし外務省かフィンランド大使館だかの依頼で描いたクリスマス用の手紙の挿絵なのだそうだ。クリスマス用のイラストの依頼を受け、フィンランドらしいクリスマスの絵としてトーベ・ヤンソンが描いたものであるらしい。そうか、だから少しクラシックで、フィンランドらしいトナカイと、フィンランドのクリスマスに欠かせないキャンドルや小人(トントゥ)が存在するのだ。もともとは(トーベ・スロッテの記憶によれば)黄色の全然違う色がつけられた絵だったそうだけれど、マグに描きこむにあたって、全体にあう色に配色を変えたのだとか。

フィンランドのムーミンマグのコレクターやムーミン好きの人たちにも「あのトナカイは」と謎だったトナカイの話、これにて一件落着です。

森下圭子

こちらが謎だったトナカイの絵。

ムーミンマグはいくつもの試作を重ねながら完成します。こちらは同じ柄で色を試しているところ。