ヘムレンさんの遊園地

いよいよ3月! ムーミンバレーパークのオープンが約2週間後と迫ってきました。そこで、今回はムーミンバレーパークの数々のアトラクションのなかから、ツリーハウス「ヘムレンさんの遊園地」の元になったエピソードについて、ご紹介したいと思います。
ヘムレンさん、と聞くと紫色のワンピースを着たおじいちゃんを思い出す人が多いかもしれません。『楽しいムーミン一家』などのアニメ作品でムーミン谷に住んでいるヘムレンさんは、小説『ムーミン谷の彗星』『たのしいムーミン一家』に出てくる、切手や植物を集めるヘムレンさんが主なモデルになっています。

でも、ヘムレン(ヘムル)というのは種族の名前で、ムーミンのお話には何人ものヘムレンさんが登場するのです。  小説『ムーミン谷の冬』のスキーが好きなヘムレンさん、『ムーミン谷の十一月』のヘムレンさん、コミックスの署長さんもヘムル族です。

さて、遊園地のヘムレンさんについては、短編集『ムーミン谷の仲間たち』収録の「しずかなのがすきなヘムレンさん」(講談社刊/山室静訳)で描かれています。

ヘムレンさんは、陽気なおじさんたちがやっている遊園地で働いていました。入場券にパチンパチンと穴をあけていたのです。でも、本当は、騒がしい遊園地の仕事が好きではありませんでした。彼の望みは、早く年をとって、のんびりと年金暮らしをすることだったのです。

あるとき、大雨が降り出して、八週間も降り続きました。遊園地は水びたし。何もかもすっかり色あせて、流されてしまいました。

ヘムルのおじさんたちは、つぶれた遊園地の代わりにスケートリンクを作ることに。そして、ヘムレンさんにまた入場係をやらせてあげるよ、と言ったのです。ヘムレンさんは勇気を出して、そんなことはしたくないんだと伝えました。おじさんたちは大笑い。好きにすればいいさと、おばあさまの古い大きな公園をくれました。長い間、誰も手入れしていなかった庭には草木が茂って、まるで廃墟のよう。ヘムレンさんはしあわせな気持ちで、自分だけの静かな庭を歩きまわりました。

ところが翌朝、ホムサの少年がやってきて、子どもたちはみんな、遊園地がなくなって悲しんでいる、と言い出しました。しかも、遊園地を再開するために役立ててほしいと、流れてきた飾りや遊具を集めておいたものを積み上げていったのです! 

 

自分の好きなことだけをして過ごしたいと思っていたヘムレンさんは大弱り。

結局、子どもたちのことが気にかかって、新しい公園を作りはじめました。でも、前の遊園地から流されたものは壊れていたり、足りなかったり。ヘムレンさんひとりでは手におえないところは、子どもたちも手伝いました。

大へび、なべ、カーテンなどなど、みんなふしぎなものを持ち寄って、働きに働いて、ついに公園が完成! 池に飛び込む短いジェットコースター、ボート、りんご園、ブランコ、たくさんの鏡のかけらや金銀の飾りがきらめく木々のてっぺんには、小さいベンチやふかふかした巣があって、ジュースを飲んだりお昼寝したりできるようになっています。

ヘムレンさんは子どもたちに「これは遊園地でなくて、沈黙の園なんだよ」と言い聞かせました。みんな、ものも言わず、公園に散っていきます。そして、大きな声はたてずに、思いっきり楽しく遊んだのです。

 

ムーミンバレーパークヘムレンさんの遊園地、Hemulin leikkipaikka(ヘムリンレイッキパイッカ)は、体を動かしたり、森林浴をしたり、自由に遊ぶことができるアスレチックツリーハウスなんだそうです。ここで遊ぶときは、静寂を愛するヘムレンさんと、いっしょに沈黙の園を作った子どもたちのことをぜひ思い出してみてください。ちょっとだけ声を落しながら、仲良く譲り合って遊べば、うれしそうに見守るヘムレンさんの気配が感じられるかもしれません。

萩原まみ